ピリオド 中編-3
母から聞かされた離婚話。
昨日は、てっきり打ち明けに来たのだろうと思っていたのだが、アテが外れてしまった。
(…じゃあいったい、何しに来たんだ?)
朝から部屋の片づけ。午後はレストランで食事。
そして、夜は酔い潰れて眠ってしまう。
(何かを待っているのか…?)
懐かしさから気づかなかったが、実家で会った時も下着を買って来たり、その姿を見せろと云ってきたりと。
今まで見せたことのない亜紀を、オレに曝しているのは何故なんだ。
単に離婚話だけではない、何か重要なことを打ち明けようというのだろうか。
(…これじゃ堂々巡りだな)
オレは思考を切り替えた。あれこれ詮索しても始まらないし、後は時間が解決してくれるハズだ。
「先輩ッ、此処に入りましょう」
「ああ、着いたのか」
タイミングの良い声につられて、外を見たオレは固まった。
「…おまえ、此処って」
「ええ、此処のランチが結構イケるんですよ」
見えたのは昨日来たトスカーナ。途端に口の中で苦味が広がった。
「どうかしたんですか?」
「いや…何でもない」
なんてバットタイミングなんだ。切り替えた思考を、無理矢理戻せとでもいうのか。
「今日は日差しが強いから、あっちに行きましょう」
「ああ…」
指差す先に視線を移すと、さらに驚くべき光景がオレを待っていた。
日差しの届かぬ奥のテーブルに、亜紀が座ってるではないか。
「あいつ…」
「えっ?」
オレは後輩を押し退けて、テーブルの前に立つ。
亜紀はすぐさま気づいたようで、食事の手を休めると顔を上げて微笑んだ。
「スーツ姿も結構いいね」
しおらしい社交辞令なんぞ無視だ。
「何してんだよ?」
「それはコッチの台詞よ。なんでまた…」
「オレは仕事中に昼メシを食いに来ただけ。そっちは?」
「わたしもそうよ。今、出たところだから」
「わざわざ服を着替えてかい?そんな服、昨日は無かったよな」
サマーセーターに黒の巻きスカート。昨日のラフな格好とは大違いだ。
途端に、亜紀は口ごもる。目線を逸らして声が小さくなる、ウソをつく時の癖が昔のまんまだ。