ピリオド 中編-2
「ち、ちょっと…」
身に着けたブカブカのトレーナーの中を覗き込むと、慌てた様子でオレを見た。
「これって、アンタが?」
「そうだよ。まさか、服を着せたまま寝かす訳にはいかないだろう」
「ブラジャーも?」
頬をわずかに赤らめ、毛布を肩口までしっかりと被っている。
「ああ。確か、昔から着けて寝てなかったよな」
そんなの当然だろう。
でも、亜紀はというと何か企みのある笑みを浮かべた。
「アンタまさか、脱がすときに触ったりしてないでしょうね?」
「はあ…?バカか」
瞬間、腹の中が締め付けられる。
「何を云いだすかと思えば…」
軽くいなそうとするが、亜紀の方は未だニヤニヤと笑っていた。
「わたしに見られておっきくするんだもん。寝てる隙に胸触ったり、匂い嗅いだりしたかもしれないよねえ?」
「バカバカしい…オレ、行くから。カギ閉めたら持っててくれよ」
普通を装おい徹すが、中身は、心臓は激しく脈打っていた。
まるで昨夜の出来事を知っていたかのように、心の中を見透かされた気がした。
「和哉…」
部屋を出ようとするオレを、亜紀の声が止めた。
「なんだよ?」
「人はね、そう簡単に変われないモノなのよ」
そう云った顔は、嬉しそうに映った。
「朝から意味分かんないよ。まだ酔ってんじゃない?」
つい、ドアを持つ手に力が入っちまう。
(そんなことは分かってるさ…)
心地よいはずの朝の日差しが、やけに虚しく見えた。
「先輩ッ!先輩ってばッ」
「な、なんだ?」
後輩の声が、白日夢のようだったオレを現実に引き戻す。
「次は何処に行けばいいんです?」
「ああ、すまん。次は…と…」
慌ててスケジュール帳を開くオレに、運転席から心配気な視線が向けられた。
「どうしたんです?今日は朝から、らしくないですよ」
「すまんな。ちょっと疲れてんだろう」
「確かに、今月は休みも満足に取れませんでしたからねえ」
ごまかしの言葉に納得の声。オレはスケジュール帳に目を走らせる。
「…後は午後の件ばかりだな」
「でも、お昼にはちょっと早過ぎませんか?」
そう訊ねる声が、やけに嬉しそうだ。
「たまには良いんじゃねえか?普段は、かき込むだけの昼メシなんだから」
「そうですよねッ」
後輩に行先を任せ、オレは再び白日夢の中に落ちた。