ピリオド 中編-10
「情けねえや…」
風呂から上がると、亜紀はリビングでテレビを観ていた。
オレは無言のまま傍を通り過ぎて寝室に入り、寝間着代わりのスウェットを身につけた。
毛布を持ってリビングに戻ると、亜紀もキッチンから現れた。
「ほらッ」
缶ビールが差し出される。
「…いや、今オレ、そんな気分じゃ」
「いいからさ、付き合ってよ」
亜紀の表情は、普段の柔らかさを漂わせていた。
仕方なく缶を受け取り、ソファに腰かけた。
「何でそんなに離れるの?此方に座りなさいよ」
真っ直ぐに見つめる目が、まともに見れない。視線を合わさないまま、オレは亜紀の対面に腰かける。
「どうだった?わたしに口でされて。久しぶりだったから、すぐにイッちゃったみたいね」
気持ちが沈んでいく。改めて、自分の考えが間違いないことに気づかされた。
「ほらッ、飲みなさいよ」
両方の缶ビールが開けられた。亜紀は自らの缶を傾ける。
「ふうッ」
一気に空にした缶をテーブルに置き、オレの顔を覗き込む。
「和哉、覚えておいてね」
「……」
「アンタは男だってことよ」
オレは俯いたまま、亜紀の言葉を待った。
「男はね、愛が無くてもセックス出来るの」
「…そんなことは…」
「云い切れる?アンタは中学生になって性欲が湧いたの。その時、身近なわたしを捌け口にしただけ。
それを愛だと勘違いしてるだけなの。わたしへの想いは、最初にセックスした相手を忘れられないだけなのよ」
亜紀は腹の中をすべてさらけ出すと立ち上がった。
「じゃあ、おやすみ…」
そして寝室へと消えた。
オレは缶ビールを持ち、喉に流し入れた。
「…そうじゃない。そんなわけない」
それから1時間。テーブルには、6本の空缶が並んでいた。
オレは性欲を愛だと勘違いしていたのか。
否定し切れない思いが、心を掻き乱していた。
…「ピリオド」中編 完…