『Summer Night's Dream』その4-1
単調な作業だった。
装丁を見て、中身を確認しては、また元の棚に戻す。
別の本を取り、適当にページをめくっては、また元の棚に戻す。
その繰り返しを続けて、もう二時間にもなる。
「つまらないんですけど……」
「そういう、問題じゃ、ないでしょ……っと」
惰性的な作業に飽きた陽介を尻目に、さくらは淡々と仕事をこなしていく。
既に自分の担当エリアを終えて、陽介の近くにまできていた。
ちらと横顔を窺う。
「…………」
真剣そのものだった。
やはりお嬢様は出来が違うのだろうか。
「なあ、それ……面白いのか?」
「え、何が?」
ふと、口をついて出た質問。
別に彼女が退屈とかそんな基準でここに来てる訳ではない事は知っている。
ただ、聞いてみただけだった。
「そうね……うん。どちらかと言えば、楽しいのかも」
意外な返答に、思わず仰ぎ見ると口に手を当てて一人で納得する様に頷いていた。
「マジか?」
「うん、マジ」
そう言って、再び手を動かす。
「私ね、指令とか、任務とか、そういった言葉に少し弱いのかも……」
それは今日の昼間に会ったウチの部長の口癖だ。
初対面の人に対しても仰々しい言葉遣いに、大抵の人は引くのだが、どうやらさくらは違うらしい。
「本気にしない方がいいよ。あれ、ノリで言ってるだけだから」
「そうかもしれないけど……それに乗るのが楽しいのよ、きっと」
そう答えながら、手に取った本を元に戻す彼女の表情は何故か嬉しそうに見えた。