The last berry-愁--6
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…これで、この人の気が晴れるなら…いくらでも殴れば良い。
心の中でそう言って、私は目を閉じた。
だけど…私の周りの空気が破られることはなく、私はそっと目を開いた。
「………愁さんっ…!」
眼鏡が石に当たる乾いた音が響いた。
始めに目に入る、赤く染まる、腕。
塞がりかけていた傷が、見る間に血に染まっていく。
「愁、さんっ…ごめんなさい、私…。」
「大丈夫。」
訳も分からずつい謝る私に、愁さんは優しく言った。
「母、さん。」
愁さんは腕を押さえたまま眼鏡を拾い、母親に向き直った。
彼女は愁さんの怪我に動揺したようだったが、ぎこちない愁さんの言葉で、もう一度彼を睨んだ。
「僕はあなたを、殺したい程恨んでる…たぶん、今でも。」
そう言って愁さんは彼女に一歩近づき、彼女は体を強張らせた。
「だけど、僕はもう…
…人を憎んで暮らすことに疲れた。」
愁さんはなぜだか寂しそうに笑って、彼女を真っすぐ見た。
「さようなら。」
愁さんがそう言ったとき…一瞬時が止まったかのように錯覚した。
文字通り固まっている彼の母親を一瞥して、愁さんは私の手をとって歩き出した。
「なんで、」
歩きながら、愁さんが私に言う。
「え?」
「なんで、あんなことした。」
愁さんの声は、怒ってるようだった。
どうしよう…あんな風に出しゃばって、やっぱり迷惑だったよね。
「ご、ごめんなさい。私、余計なことばっかり言って…。」
「そうじゃない、さっき、なんで避けなかったんだ。」
そう言って、愁さんはこちらに向き直る。
私は一瞬何のことか分からず黙ってしまったけど、すぐに先程のことを思い出した。