The last berry-愁--5
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「…そうね、あんたみたいな子にそれを求めるのが間違いなのかもね。」
目の前にいる血の繋がりだけの母親はそう言って、大袈裟にため息をついた。
…もういい、分かった。
分かったから、もう帰ってくれ…。
「だって、あんたまるで人形だもの。
人形みたいに無表情で、冷たくて、私にはちっとも笑わない、本当可愛くない人形…。」
人形、人形、と頭の中で音が反響する。
…もう、やめてくれ…。
「---愁さんは人間です!」
その声が、混沌とした僕の中に突然飛び込んで来た。
重い頭を上げると、奈々が僕と母親との間に入って、あいつを睨んでいた。
細い身体をぴんと伸ばしていて、いつもより少し大きく見えた。
「愁さんは、感情も愛もすごくたくさんある、人間です。」
あいつは、奈々を見て鼻で笑った。
「なあに?あんた関係ないじゃない。」
「関係ないけど…愁さんが苦しむのは嫌!」
「なによ、あんたに私の気持ちが分かるの?
子供を痛い思いして産む気持ちや、子育てのつらさはわからないでしょう?」
都合の良い言葉に、つい口の端が歪む。
…あんたがいつ、僕を育てたよ。
「私は子供を持ったことはないし、まだ経験してないから分からないけど…でも、」
奈々はキッとあいつを睨んだ。
「私は、自分の子供を誰かの代わりにはしない。」
あいつの眉がぴくっと反応する。
僕はなぜだか…心の中で奈々の名を呼んでいた。
「お願いだから、もう愁さんを傷付けないで下さい。」
奈々の必死の表情で、あいつの顔はますます怒りで震えた。
言葉では対抗出来ないと思ったのか、あいつは奈々に向かって、持っていたハンドバッグを振り上げた。
バッグにジャラジャラと付けられた、角ばったアクセサリーが揺れる。
奈々はそれを見て---
ただ、目を閉じた。
!…馬鹿、なんで避けないんだよ…
---気づいたときには、身体が動いていた。