The last berry-愁--3
---そんな状況が幾日か続いて、ある晴れた日、私はある意味で私が一番会いたかった人と顔を合わせることになった。
少ない会話を繋ぎながら外で昼食を摂り、愁さんの家に行くと…そこに見かけない女性が立っていた。
化粧が濃く、胸の開いた派手な服を着ている。
けだるそうにタバコの煙を燻らせるその人からは、きつい香水の匂いが漂ってきていた。
…誰だろう?
愁さん、と呼ぼうとして、私は息を呑んだ。
愁さんは青ざめた顔に、怒りとも恐れともつかない表情をのせていた。
その肩は軽く震えている。
とても声をかけられる雰囲気ではなかった。
「愁!」
その女性は愁さんを見つけると、今まで吸っていた煙草を放り投げ、すぐにこちらに駆け出した。
「随分お父さんに似て綺麗になったじゃない。」
彼女の言葉に、愁さんの目が険しくなる。
愁さんの頬に艶かしく伸びてきた指を避けて、一歩後ずさった。
「僕は、父さんじゃない。」
『父さんにはなれない、から…』
私は愁さんの寝言を思い出した。
…どういう意味なんだろう。
「電話じゃ面倒だからさ、直接来ちゃった。」
「帰れよ。」
愁さんの声は、何かに怯えているようだった。
私はただ、立ち尽くしていた。
「こっちでやりくりしてる金はあなたが管理してるんだって?
やっぱりあなたはお父さんと同じで優秀だから。」
「優秀なんかじゃない、僕は…。」
愁さんは言葉を切り、最後まで言わずに私の手を取った。
突然のことに驚いたが、縋るように握る愁さんの手がなんだか弱々しくて、私はぎゅっと握り返した。
愁さんはそのまま私の手を引いて、彼女に背を向ける。
「帰ってくれ、二度と来るな。
…あんたの顔は、もう見たくないんだ。」
その言葉は嫌味なんかじゃなくて、本当につらそうだった。
私が恐る恐る彼女の顔を見ると、呆気にとられた様子だったのが、見る見る歪んでいった。
「何よ!」
---叫び声が、突き刺さる。
「本当ならあんたなんか、あんたみたいに冷たい子なんか、産まなくても良かったんだから!」
私を眩暈のような感覚が襲った。
愁さんは上を向いて、静かに目を閉じた。
…愁さんの、お母さん…