The last berry-愁--2
***
あれ以来、愁さんは私に触らない。
時々私に手を延ばすが、何かに後悔するようにその手をすっと引く。
愁さんといてもほとんど会話はない。
私は愁さんと一緒にいるだけでなぜだか安心するけれど、愁さんはどう感じているのだろう。
私といることが、彼の負担になっていなければいいのだけど…。
隣に座っている愁さんをちらっと見る。
また、欠伸を噛み殺した。
愁さんは最近あまり寝ていないみたいで、いつも眠そうな顔をしている。
私がそのことを言うと愁さんは、夢見が悪いんだ、と暗い表情で笑った。
「愁さー…。」
声をかけながらドアを開けると、愁さんがソファに寄り掛かってうたた寝をしていたので、慌てて口を閉じた。
小さく寝息を立てる愁さんの近くまで行き、そっとそばに座った。
「…あ……。」
眼鏡越しに見える、愁さんの頬にうっすら涙のあとが残っていた。
「……や、め…」
「あっ、ごめんなさ…。」
起こしてしまったかと思い私は小声で謝ったが、愁さんは唸っただけだった。
寝言…?
「僕は…父さんにはなれない、から…。」
悲痛の表情で搾り出すように声を出す。
父、さんって…?
---愁さんは以前よりも口数が少なくなり、哀しそうな顔をするようになった。
ずっと電話が鳴り続けていて、それに応答するたびに愁さんの表情が重くなっていったように感じたのは、私の気のせいかな…。
いつも顔色が悪く、気のせいか以前よりも痩せた気がする。
でも私は…何もしてあげられなくて。
私がどんな言葉を言ったところで、きっと愁さんの心は安らぐことはない。
心配で、そばにいたくて、いつも私は愁さんの隣にいる。
愁さんが嫌がらずにそばに置いてくれることがとても嬉しかったけれど、自分が何もできないことがひどく悔しかった。