The last berry-愁--14
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「…君は僕の目に『真っ白』に見えた。すぐに思い通りに染まる、とね。」
愁さんはゆったりとした足取りで私の隣を歩く。
「でも違った…君は『透明』だったんだ。
僕が何をしても、君は君のままで変わることはなかった。」
「私は愁さんに会ってすごく変わりましたよ?
本気で人を好きになることが素敵だって、知りました。」
私は愁さんの手に指を絡めた。
「僕みたいな人間とでそうなるところが、君なんだよな。」
愁さんはどこか遠くを見て、私の手を優しく握る。
「…僕は、ここにいるかな?」
愁さんは私の目を見ずに尋ねる。
「ここにいます、私の隣に。」
私は愁さんの手を強く握り返した。
---愁さんは、まだ自分のことを肯定することはできないみたい。
それは…私には変えることは出来ないのかもしれない。
結局、私は何もしてあげられていないと思う。
でも…
愁さんの苦しいときに一緒にいられて良かった…。
私は隣にいる愁さんを見上げる。
髪がさらさら風に揺れて、その下の憂いを帯びた瞳は前を見据えている。
こんなに美しくて頭の回転も早くて、なんでも持っているように、完璧に見える彼は、当たり前過ぎるものを求めて苦しんでいたんだ…。
私みたいに普通過ぎる人間には分からない、孤独なのかもしれないな。
「普通過ぎる、か。
君は自分をそう思っているんだ、面白いね。」
後日その話をしたら、愁さんは笑った。
なんでかな?
愁さんは、首を傾げる私の髪を撫でた。
「君はずっとそのままでいいよ。」
優しい瞳で私を見つめ、おでこに軽くキスをする。
私はほんのり暖かくなる頬に触れ、やっぱりこの人からは離れられないな…
…そう思った。