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許し合うこと
【エッセイ/詩 その他小説】

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許し合うこと-1

これは、私達がまだ、結婚間もない頃のお話。


「飲みに行く。」

そう行って出かけた夫の帰りを、私は待つともなく、キッチンで本を読んで待っていたのです。

夜11時……深夜0時……1時……2時……

時間だけが非情に過ぎていく中、新婚の夫は待てど暮らせど帰って来ない。

こんなに遅くなるなら電話の1本くらいくれてもいいのに。

私もそのあたりで諦めて寝てしまえばよかったのに、なぜか意地になってしまったのです。

そして、深夜2時を過ぎた頃になって、ようやく夫が帰ってきました。

程よく酔っ払い、ふらつく足取りの夫を、私は結果的にキッチンで待ち構える形になってしまいました。

夫からしたら、たぶん臨戦態勢に見えたんでしょう。

私自身そんなつもりはなかったんですけどね。

そして、そんな私を見た夫は「まだ起きてたのかよ。」と途端に不機嫌になりました。

そんな夫の言葉と態度に更にカチンときた私は、気付けばここぞとばかりに夫に噛みついていました。

「何なのよ、その言い方。謝る方が先でしょ。」

「は?何で俺が謝んなきゃいけないんだよ。」

「だって、私はあなたのことを寝ないで待ってたんだよ。」

「いつ俺がお前に寝ないで待っててくれって言ったよ。」

どうやら夫の方にも全く引く気はないようです。

こうなるともう、売り言葉に買い言葉で収拾がつかなくなるのが男と女の常。

深夜だと言うのに、私の頭の上では決戦のゴングが鳴り響きました。

「どういう神経してんのよ。電話の1本もなくこんな時間まで飲み歩いて。だいたいあなたには結婚した自覚があるわけ?」

「たかだかちょっと飲みで遅くなったくらいで、なんでそこまで言われなきゃなんないんだよ。だいたいいちいちうるさいんだよ。」

「はぁ?別に飲んじゃいけないとは言ってないんだからさ、遅くなるならなるで、せめて電話の1本ぐらい入れろって話よ。だいたいなんでそこで一言謝れないわけ?」

「悪いと思ってねえもん。謝るわけないじゃん。」

こうして、深夜、我が家のダイニングキッチンでは延々と続く不毛なバトルが展開されていきました。

お互い手こそ出ないものの、バトルは白熱の一途を辿りっていきます。

そして、ひとしきりお互いを罵り合い、もうこれ以上言い争っても無駄な時間を過ごすだけかもしれない、とお互いが気付き始めた頃でした。

ダメ押しみたいに、夫がポツリとこう言ったのです。

「責め合っても仕方ないだろ。この先も一緒にやっていくなら許し合っていかないと。」と。



実はあれから15年、私達は喧嘩というものをしていません。

なぜなら、あれ以来、夫の言葉通り私達はお互いを許し合ってやってきたからです。

こんな夫婦はある意味特殊かもしれませんね。

でも、これがうちの夫婦の形。

うちだけの夫婦の形なのです。





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