未少年 4-8
……………
「あん、だいじょうぶ?」
「うん。もう大丈夫。ごめんね」
「あのひとだれ?」
「あぁ…あいつは…私の最低な元カレ…」
「…もとかれ…あんがまえにおつきあいしてたひと」
「…そう。でも…ほんと最低だよ…」
「…ぼくあのひときらい」
「…私も、大嫌い。あいつのこと忘れられるなら忘れたいよ…」
「…わすれたい?」
「…うん…無かったことにしたい…」
「………………あん」
少し何かを考えるたような間を置いて、続けて話し出した。
「なにかをわすれることはすごくかなしいよ。なにかをおぼえることはすごくうれしいの」
「…きよみょ?」
「おもいでがないのはすごくつらい。あたまがもやもやする」
「………」
「おもいでがあることはすごくうれしい。おもいでがあるからいまがあるの」
「………」
「ぼくにはおもいでがない。なにかをわすれるのはかなしいから、おもいでがあるあんはしあわせだよ」
「…きよみょ…」
「つらいおもいででもだいじなの。むかしがあるからいまがあるの。あん。わすれたいことでもわすれちゃだめだよ」
「………うん……うん…」
じっと目を見詰めて話すきよみょは、どこか悲しそうで、でも力強さもあった。
ゆっくりだったけど、その分たくさん感情が篭っていた。
“僕には思い出が無い。何かを忘れるのは悲しいから、思い出があるあんは幸せだよ”
きよみょの言葉は私に深く刺さった。