所謂恋愛喜劇-1
茜は、少しばかりドジでコドモな高校二年生の女のコ。
「ふぁ〜〜!ふぃふぉふふふ〜〜〜〜〜!(うわ〜〜!遅刻する〜〜〜〜〜!)」
今日も今日とて寝坊して、朝食のトースターを口に咥えて猛ダッシュ。
そしていつものショートカット。公園の柵をぴょいと飛び越える。
全くもっていつも通りの光景。
しかし今日は、いつもと違う事が待っていた。
「ふぁ!?退いて〜〜〜!」
公園の柵を越えた所の歩道に、一人の男子が歩いていたのだ。
思わずくわえたトースターを落としつつ、茜は叫ぶ。
「!?」
茜の声に驚いて、彼女の方へと振り向く男子。
その瞬間、茜はまともに男子と激突していた。
「きゃっ!!」
『ドッシ〜ン』と言う擬音でも聞こえてきそうな衝突をし、茜は道端へと尻餅一つ。
「もう、あぶ……」
自分が飛び出したのもなんのその。茜は文句を言おうとして、そのまま固まる。
茜は尻餅ですんだが、それで済まなかったのはぶつかられた男子。
茜との激突で弾き飛ばされて車道へ飛び出し、横合いから大型トラックに撥ねられる。
そして地面に打ち付けられるその前に、対向車線の救急車に激突。
再び弾き飛ばされて、『ゴシャッ』と茜の目の前まで戻ってくる。
だくだくと、男子の周囲に赤い染みが広がって行く。
「……………ぁゃ〜……」
その光景に、思わず絶句する茜。
「…ふぅ……」
やがてため息を一つ。
「てへっ!やっちゃった!」
茜はどこぞに視線を向け、舌を小さく出して自分の頭を軽く小突いた。
カメラ目線、もしくは読者目線なのか?
「『てへっ』じゃねぇえええええええ!!」
がばっと、跳ねられた男子が手を着いて起き上がる。その顔面は既に血だらけだ。
なかなかタフである。
「こうゆう場合は直ぐに救急車呼べよっ!!ってゆうかまず俺に言う事あるだろっ!!」
激しく出血しながらも立ち上がり、男子は茜に詰め寄る。
ちなみに救急車なら、先ほど彼と激突して横転している。
「…か、身体丈夫だねっ!」
「んなフォローいらんわっ!」
激怒する男子。
「じゃあどうしろって言うのよ!」
怒鳴り返す茜。完璧に逆ギレである。
「『ごめんなさい』としおらしく謝罪の言葉でも吐けっ!常識だろうがっ!」
更に怒りのボルテージを高める男子。
…どうでもいいが、怪我は大丈夫なのだろうか。足がおかしな方向に曲がっているが。
更に言えば、『常識』という言葉を今の彼が使うと、とても説得力が無い。
「だって…だって人を突き飛ばして車道に押し出して、その人が大型トラックに撥ねられた上に救急車に激突したのなんて初めてなんだもん!どうしたら良いかなんて、判る訳無いじゃない!バカッッ!」
そりゃそんな経験初めてだろう。
ともかく叫びながら茜は、通学鞄を振り上げ男子を強打すると、そのまま走り去る。
当然、男子に対するアフターケアなど微塵も無い。
男子の方はといえば、強打された勢いで再び車道に飛び出し、乗用車に撥ねられていた。