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彼の優しさ
【エッセイ/詩 その他小説】

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彼の優しさ-1

彼と初めて遠出のドライブに出かけた時のこと。

カーブの多い山道で車酔いしてしまった私は、途中彼に車を止めてもらい外に出た。

車から少し離れたところに腰を下ろせそうな場所を見つけ、ひとまず腰を落ちつける。

普通ならその足ですぐに掛けつけてくれてもよさそうなものなのに、待てど暮らせど彼は来ない。

何だか私は人里離れた山奥に、ポツンと1人取り残されたみたいな気分になった。

それでも冷んやりした山の空気はうだった私の身体には心地よくて、しばらく休んでいると気分もよくなってきた。

何度か深呼吸を繰り返し、これなら大丈夫と判断した私は車に戻った。



「大丈夫だった?」

車の外で一服していた彼がすかさず声を掛けてくる。

「うん、もう大丈夫みたい、待たせてごめんね」

私はそう言って先に車に乗り込んだ。

煙草の火を消した彼が遅れて車に乗り込んでくる。

そして身体をこちらに向けこう言った。

「もう少しでカーブも終わるけど、それまではゆっくり走るから」

「ありがとう」



車の外で私の帰りを待っていた彼は普段通りに優しかった。

特に機嫌が悪そうにも見えない。

私はそんな彼にしばらく経ってからこう聞いてみた。



「ねぇ、さっきは何で私の様子見に来なかったの?」

すると彼は「そんなこと当然だろう」とでも言いたげにこう言った。

「だってもし吐いたりしてたら、そんな姿俺に見られたくないだろ?」

その言葉に私は思わず固まった。

そんな考え方がこの世にあること自体、想定外だったから。

でも独特だけど、これが彼の優しさなんだと思う。

難解なパズルのような彼の思考回路は、時として単純構造の私を悩ませる。

しかしその反面、刺激的でおもしろい。



1年後、彼は私の夫になった。

そしてなかなか解けないパズルに、今日も私は四苦八苦している。





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