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やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

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やっぱすっきゃねん!VL-8

 説教。光陵高校野球部に伝わる、上級生が下級生に対して反省を促す行為。
 それは、練習を終えた部室で行われる。例えば、1年生のひとりが不備な行動を行った場合、最上級生の3年生は2年生を呼び出し、“おまえ達の教育がなっていない”として床に正座させられる。
 上級生の謗りを受けながらの正座は、1時間などザラで、時には2時間を超える時もある。
 すると今度は、2年生が1年生に対して同じ行為を繰り返す。当然だが、受けた自分達以上に。

 一般的に見れば“イジメや体罰”のように捉えられ易いが、それは断じて違う。
 野球とはチームスポーツである。いかに、全員が気持ちを一つに出来るかが勝敗を分ける。
 そのために、ひとりの不備でも連帯責任を取ることにより、短い期間で己れを律する心を養うのだ。
 確かに、一部には暴力沙汰にまで発展したケースもある。
 だが、それはチームを思って逸脱した件がほとんどだ。
 才能だけで駆け上がれるほど甲子園は甘くない。
 己を律し、チームが心を一つにして練習を積み重ねた者だけが、ようやくたどり着ける場所なのだ。





「着いたッ」

 球場を見た佳代は、声を弾ませ指を差した。
 電車を乗り継いで1時間ちょっと。青葉中野球部一行は〇〇県営球場に到着した。

「監督ッ、光陵高校はどっちなんですか?」
「後攻だから3塁側だ」

 佳代の声に答えた永井は、球場入口前に皆を集めた。

「今回は、藤野コーチのおかげで実現した。コーチが光陵高校野球部の関係者に掛け合ってくれたそうだ」

 関係者と聞いて、すぐに佳代と直也の頭にある人の顔が浮かんだ。
 光陵高校野球部、育成コーチ河原の顔が。

「今日の目的は唯ひとつ。決勝という雰囲気を掴むことだ」

 観客席への通路入口を潜った。部員達の歩き進む姿は静かだ。

(…これなら大丈夫だな)

 永井は思わず笑みを浮かべた。先ほど云った“決勝”というマジックワードが、これほどの影響をもたらすとは思ってもみなかったからだ。

「うわッ!もうこんなに入ってるッ」

 ゲートを潜った佳代の口から声が漏れた。
 平日にも関わらず、スタンドのほとんどは観客で埋まっていたからだ。
 同様に部員達からも驚きの声があがった。

「監督ッ、わたし達はどこで見るんですか?」

 キョロキョロと周りを見回しながら永井に訊ねると、

「あそこだ。1年生部員が陣取っている後ろに席を設けてくれているそうだ」

 そう云ってスタンドの上の方を指差した。

(…ってことは…)

 佳代の頭に企みが浮かぶ。そっと尚美の傍に近寄った。

「…な、何よ」

 たじろぐ尚美。見つめた佳代の顔が、またニヤニヤ笑ってた。

 身体を寄せて耳元で囁く。

「ナオちゃん、後で挨拶に行こっか?」

 その瞬間、尚美のこぶしが佳代の脇腹に刺さった。


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