やっぱすっきゃねん!VL-7
「何よ、その顔?」
異様に気づいた尚美。
「ん〜っ?別にぃ」
佳代はとぼける。
「別にぃ、じゃないわよ。ニヤニヤ笑って、気持ち悪いわね」
佳代は尚美に近づくと、有理にだけ聞こえる小声で話しかけた。
「ナオちゃん、1年ぶりに見るとびっくりするよ」
「な、な、何を云いだすのよッ!」
とたんに奇声を上げた尚美。みるみる顔が真っ赤になる。
(相変わらず、分かりやすいなあナオちゃんは…)
有理は苦笑しているが、佳代の方はニヤニヤが治まらない。
「春に、光陵高校の練習を見に行った時さ…」
そう前置きすると、野球部での信也がいかに努力していたかを話しだした。
「凄かったよ。砂の入った土嚢袋を、こう抱えてさ、筋トレやっててさ」
佳代はジェスチャー混じりに語りかける。いつの間にか、ニヤニヤは消えていた。
「…最後なんか、800本近いノックを受けて…」
声が止まった。異変に、尚美と有理は驚いた。
「…もの凄い顔でボールを追っかけて…ダメだ、思い出したら…」
目を赤らめる佳代の視界にハンカチが見えた。有理のだった。
「ごめん…こんなつもりじゃなかったんだけど…」
佳代は素直にハンカチを受け取り目元を拭った。
「…まったく。笑いながら話だしたと思ったら、急に泣き出して…あきれるわッ」
突き放す口ぶりの尚美。その彼女も瞳を潤ませていた。
まわりより、騒がしかった席が静かになった。車内には、レールを叩く音だけが響いていた。
試合開始30分前の県営球場。すでに1塁側、3塁側の両スタンドには、相対する高校の応援者でひしめいていた。
「おい、川口と山崎ッ!」
野球部の先輩が2人を呼んだ。
「はいッ!」
信也と山崎は、慌ててスタンドの通路を駆けて声の主の前に立つ。光陵野球部に入って4ヶ月、彼らは1年生のまとめ役に抜擢されていた。
「なんですか?」
呼んだのは今泉という、2年生のまとめ役だ。
「もうすぐ応援の音合わせやるから、1年に伝えておけッ」
「分かりましたッ」
「ちゃんとやれよッ!先週みたいに腑抜けてたら、また説教だからな」
「はいッ!」
信也と山崎は帽子を取って今泉に一礼すると、自分達1年生が座る位置へと急いで戻って行った。