やっぱすっきゃねん!VL-22
「…惜しかったね」
帰り道、佳代が直也に云った。伏し目がちに、言葉を選んで。
だが、直也の方は気にした様子もない。
「心配すんな。来年には兄貴がレギュラーになってる。その時は甲子園に行ってるさ」
直也の答えに、佳代の気持ちも幾分、軽くなった。
「でも、あんな場面…わたしも同じようになるだろうなあ」
9回のワイルドピッチを思い浮かべて、自らに照らし合わせてみる。
その時、直也が云った。
「確かにパニクるだろうな…でも、ウチは勝てる」
その自信に満ちた顔が、佳代には不可解に映った。
そのあたりを訊くと、
「ウチにはな。達也がいるからさ」
「達也が…?」
「そうだ。オレは正直、アイツは嫌いだ。いつも冷静で、あんな友達甲斐のないヤツはオレとは合わない。
でもな。アイツほど試合中に頼りになるヤツもいない。常にチームプレイに徹して、ピンチになったオレを励ましてくれる」
意外とも思える言葉が返ってきた。
「だから佳代。アイツを信じろ。アイツなら必ず、オレ逹を全国に連れてってくれる」
達也に全幅の信頼を寄せる直也。佳代には、ちょっと羨ましくなった。
「さっきの試合じゃ“達也も間違う”って云ってたのに?」
「あ、あれは…言葉のアヤじゃねえかッ。おまえにリードを教えるためのッ…」
思わぬふりに慌てる直也。
すると佳代は、はにかむように云った。
「…教えてくれて、ありがとう。おかげでさ、なんか自信ついたよ」
そんな佳代を、直也は優しく笑っている。
「オレ逹は必ず行く。必ずな…」
佳代も微笑んだ。
「ありがとう。頑張るよ…」
今までは、チームの中での自分を考えていた。
しかし、試合を通して、自分はチームに何が出来るかというふうに考えが変わった。
明後日からの初戦。佳代の中に初めて“待ち遠しい”という思いが湧き上がった。
それは、地区大会では無かったことだった。
…「やっぱすっきゃねん!」VL完…