やっぱすっきゃねん!VL-2
そして今日。
明日からの大会に備え、練習は午前中にて切り上げとなった。
全員が整列する中、永井の口から開会式での要領が伝えられる。部員達は神妙な面持ちで聞いていた。
「以上だ」
解散の声がかかった。各々が部室へと向かう中に、佳代の姿が混じっていた。
「ねえ、ちょっと待ってよ」
秋川の肩に手がかかる。
「なんだよ?」
思いもしないことに目が見開く。唐突な呼び止めに事態が把握できない。佳代は、そんな気持ちなどお構い無しに訊ねた。
「あのさ、今日も自主練やるの?」
秋川は、ようやく突飛な行動を理解した。
「ああ。明日は開会式だけだからな。昼メシ食ったらやるつもりさ」
「それさ。わたしも入れてくれないかなあ?」
少しはにかむ佳代。そんな彼女に、秋川は満面の笑みを浮かべた。
「ああ、2時に店で待ってるから」
「わかったッ!2時だね」
嬉々とした顔と声を残して佳代は走り去って行く。その軽やかな足取りに、秋川は一種、爽快さを感じた。
「おまえ、秋川と何喋ってたんだ?」
いつもの帰り道。直也は疑問を佳代にぶつけた。
ほんの短い間の出来事だったが、わざわざ秋川の元へ駆け寄り、楽しそうに話すところを見てしまったからだ。
しかし、佳代にとっては、何故、直也がそんなことを知りだがるのか分からない。
「何って、何でそんなこと訊くの?」
「だってよ、なんだか楽しそうに話してたから、何かなって…」
視線を合わせず答える直也。佳代はそれを見て、“ははあ…何か勘違いしてるな”と感じた。
(ここはひとつ…)
企みを持つ目がニヤける。
「実はさ。この後、デートに行くんだッ」
「エエーーッ!」
そう云ってニッと白い歯を見せる佳代。対して直也は、信じられないという驚きの顔。
「…お、おまえと、秋川が…?」
差す指が、かすかに震えている。
「そうだよ、悪い?」
「いや、悪かねえけどさ。秋川がねえ…」
直也は、未だショックが抜けきれない様子だ。
「ちなみに、何処に出かけるんだ?」
「何で、アンタに教えなきゃならないのよ?」
「いや…参考になればと思ってさ」
佳代の親しい友人、有理を想い続けて1年半。直也は未だ、伝えきれずにいた。