やっぱすっきゃねん!VL-18
「やっぱり、おまえはスゴイよ」
「……?」
「オレも、そう思った」
「ホントにッ!」
思わず笑みが弾ける。
「ああ、ただオレはカーブを投げるがな」
「どうして?」
「カーブなら時間が稼げるから、アウトに出来る確率は増える」
「なるほどねえ…」
2人の推測通り、バッターは初球セーフティを試みた。
しかし、入部バッテリーも、そう考えたようで、インハイの真っ直ぐを投げてファウルにした。
そして次の球は外角低めのチェンジアップ。だが、バッターはあっさりと見送った。
どうやら、低めは捨てろと指示が出ているようだ。
「佳代。次は?」
「わたしは外の低めに真っ直ぐ」
「オレも同じだな」
だが2人の予想に反して、3球目は内角低めの真っ直ぐだった。
バッターは上から強く叩いた。打球は低い軌道を描き、一瞬で内野の頭上を越えた。
「初ヒットだッ!」
怒涛の如き叫びが3塁側から上がった。
打球はライトのライン際でバウンドし、ファウルゾーンへと転がっていく。
ランナーは身体を斜めに倒し、大きな弧を描きながら全速で1塁を蹴った。
ボールはフェンスに当たって方向を変えた。ライトは未だ捕球出来ていない。
3塁コーチャーの仲間が手を回している。ランナーは、迷うこと無く2塁をも越えた。
ようやく内野にボールが帰った時、ランナーは軽い滑り込みで3塁に達していた。
割れんばかりの拍手と歓声がグランドに響く。ランナーは仲間のいるベンチに向け、両手を高く上げた。
「さあッ、これで試合が動くぞ!」
直也の言葉に合わせたように、今まで出番のなかった吹奏楽部のトランペットやトロンボーンが、忙しくも調和のとれた音を奏でる。
「こんな音楽聴いてると、まるで、甲子園にいるみたいだねッ」
佳代もリズムに合わせて手を叩く。
「カッセ、カッセ光陵ッ!カッセ、カッセ光陵ッ!」
太鼓を鳴らす者。リズムに合わせて踊るチアガール。大段幕を振る者。両手を合わせて展開を祈る者。
応援する心は一つになって、戦う選手たちに届く。
タイムがとられた。伝令と共に、内野手全員がマウンドに駆け寄った。
「佳代、おまえはどうする?」
「どうするったって…こんなピンチに…」
問いかけに対して、必死に頭を巡らせるが答えがなかなか出ない。
「…とりあえず、際どいところに投げて三振取りにいくかな」
「なるほど。オレは1点は諦めて、後続を断つな」
「エッ?」
佳代には、直也の答えが意外に映る。いつも気持ちで投げてる彼から想像出来なかった。
そのあたりを訊いてみると、
「点を取られることを気にすると、変に力んで結局打たれちまう。だから、アウトにすることを優先して1点は諦めるんだ」
「でもさ、終盤の1点なんだよ?」
「確かにそうだが、あと3回あるんだ。必ず仲間がやってくれるとオレは信じてる」
佳代のイメージとは違う直也がそこにあった。