やっぱすっきゃねん!VL-17
7回裏。光陵の攻撃。
選手逹が、ベンチ前で円陣を組んだ。
「あれは?気合いを入れ直してるの」
不思議に思った尚美は、佳代に訊ねた。
佳代は小さく頷くと、
「それもだけど、配球の傾向とか、狙い球とか捨て球を指示してるの」
「捨て球って?」
「例えば、変化球は打たずに真っ直ぐだけ狙って打てとか、2ストライク後には変化球が多いだとか」
「なるほどッ、意思の統一だ」
「そう。でも、相手もその辺は解ってるから簡単じゃないけどね」
まるで、解説者のように展開をのたまう。
すると、
「試合の時も、それくらい展開を読んでくれればなあ」
傍で聞いていた直也から茶々が入る。痛いところを突かれ、佳代は頬を赤らめた。
「う、うるさいなあッ、女の子の話に入ってくるなッ」
「はいはい…」
視野狭窄なのは佳代自身も分かってる。だが、それを他人、特に直也に云われるのがシャクに障るのだ。
そんな2人のやり取りを見た尚美は、有理と同様にニコニコ笑っていた。
円陣が解けた。打順は1番から。打巡も3回り目に入った。
左打席に入った。が、前の2打席よりも明らかにベース寄りだ。
「ベース寄りか…佳代。おまえなら何を投げる?」
直也から突然の問いかけ。
「わたしは、達也のサイン通りに投げるだけだから…」
そう答えた佳代に、直也は首を振る。
「佳代。自分でも考えないとダメだ。出番が無い時でも、いつもバッターへの配球を考えるんだ」
「でも、わたしなんかが…」
「それでもやれ。達也だって間違う時がある。それに投げるのは、おまえなんだからな」
直也は続ける。
「昨日、秋川や加賀と自主練やりながら考えさせられた」
佳代は、グランドを見ていた目を直也に向けた。
「あれは“試合のための練習”だった。常に準備を怠らず、チャンスが来れば、いつでも出れるように…」
佳代は驚いた。“試合のための練習”という言葉に。それはかつて、母親の加奈や一哉に聞かされた言葉だった。
「…じゃあ、インハイの真っ直ぐ」
佳代は恐る々答える。すると今度は、直也が顔を向けた。
「理由はなんだ?」
「初球、セーフティ・バント狙ってるかも。だから1番やり難いところに」
理由を聞き、直也の顔から笑みがこぼれた。