やっぱすっきゃねん!VL-16
「さ、澤田さん、そんな大っきな声出さなくったって…」
「云わなきゃ分からないでしょッ!」
「はい…」
「いい?試合に集中するのよ」
佳代は一方的に意見を云うと席へと戻って行った。
「まったく、あの子たちは…」
席に戻った佳代。未だ治まらないのか、小声で文句を云っている。
「仕方ないんじゃない」
突然、となりの有理が異を唱えた。
「えっ?どういうこと」
「もう、そういう年頃だってことよ」
「そういう年頃って?」
意味の解らぬ佳代が訊こうとした時、
「女の子を気にするってことよ」
ようやく落ち着いた尚美が、会話に入ってきた。
「年上の女の子が、あんな短いスカートでいるのよ。そりゃ、見るなって云う方が無理だわ」
「へえ、そんなモノなのか」
「そうよ」
いまいちピンとこないまま、視線をグランドに戻す。ちょうど投球練習を終え、バッターが打席に向かっていた。
入部のピッチャーは左のサイドハンド。バッターは左打席に入った。
初球は緩いチェンジアップ、2球目、3球目を外角低めの真っ直ぐで、カウントを2ストライク1ボールとした。
バッターは、バットの握りをわずかに余らせる。キャッチャーは、その変化を見つめてサインを決めた。
ピッチャーが小さく頷いた。セットポジションの構えから、ゆっくりと右足を上げ、併せて上体を折り曲げて一拍、動きを止めると、一気に身体をひねって投げ込んだ。
緩いボールが内角の真ん中に入ってきた。バッターはタイミングを合わせて強くバットを振り出す。
その瞬間、ボールさらに内角へと食い込みながら小さく落ちた。
「スイングッ!ストライクスリーッ!」
先頭バッターは三振に倒れた。
「ねえ、今のボール…」
「…多分、スクリューだろう」
「スクリュー?」
「シュートみたいなモンだ。内角に曲がりながら落ちるんだ」
「そんな変化球も…」
「当たり前だ。甲子園クラスのピッチャーなら、6〜7種類は持っている」
「そんなに…」
「まあ、逆に云えば、そのくらい投げれないと抑えきれないのさ」
2人の会話が進む中、間に挟まった有理は、飛び交う言葉に耳を傾けながら何故かニコニコ笑っていた。
結局、光陵の攻撃も3人で終わると、その後も互いにチャンスも無いまま、イニングだけが過ぎていった。
「…なんだか…胸が苦しくなるね」
不安を漏らす佳代。
「まったくだ。自分のゲームより緊張するな…」
直也は、“ゼロ”が並んだスコアボードに目をやって頷いた。
光陵のピッチャーが、速いストレートと鋭く曲がるスライダーを武器に、三振の山を築いていけば、入部のピッチャーも、負けじとチェンジアップとスクリュー・ボールを織り混ぜて、凡打に切って取る。
互いが1歩も引かない、がっぷり四つの闘い。1球のミスが即、勝敗に繋がる緊迫感が、選手ばかりか球場全体をも包んでいた。