やっぱすっきゃねん!VL-15
「プレイボールッ!」
主審の右手が上がった。合わせて球場全体に、試合開始を告げるサイレンが響きわたった。
1球目。キャッチャーのサインに頷き、ピッチャーは投球動作に入った。
左足を上げたと同時に、腰を右回りにひねって軸足になる右足に力を蓄えた瞬間、左足が宙を蹴り、上体を一気に反転させた。
バッターは一転、バントの構え。それを見たファーストとサードが、ホーム目掛けてダッシュする。
右足のスパイクが、マウンドの窪みを掴む。ひねりから生まれた大きな力を右腕に伝えると、ムチのようにしならせてボールを放った。
威力のあるボールがホームへ迫ってくる。バッターは素早くバットを引いた。
外角低めに構えたミットから高周波の音が鳴った。
間をおかず、主審の右手がストライクであることを告げた。
「1球目から…すげえな」
「何が?」
直也の云った言葉の意味が、佳代には解らない。
「あのバッター、内野の反応見るためにやったんだ。次は仕掛けてこないだろ…」
「ふうん、そうなんだ」
「外角低めならバントしやすいはずだ。やらなかったのは、ファーストとサードの反応を見たかったからだ」
直也の熱弁を聞きながら、佳代は何気なくバックネット裏の表示板を見た。
「な、直也ッ」
「なんだよッ」
「今の、141キロだって!」
「当たり前だ。今どき、140投げるピッチャーはザラにいる」
ザラではあるが、誰もが投げれる速度ではない。才能ある者が積み重ねた努力によってのみ到達できる領域だ。
その後、1番、2番を三振、3番をショートゴロに打ち取って1回の表は終わった。
光陵の選手が3塁側ベンチへ引き上げて来ると、応援団全員が立ち上がって拍手や声援で出迎えた。
替わって入部の選手が守備へとグランド散って行く。
「さあッ、今度はこっちの攻撃だ」
青葉の連中も光陵の応援団と同様に、立ち上がって声援を送る準備に入った。
そんな中、佳代の後席の斜め前、和田、中里、川畑、下賀茂の2年生クインテッドが、ニヤニヤ笑っいる姿が見えた。
視線の先を追っていくと、どうやら階段に並んだチアガールを見ているようだ。
「アイツらッ」
佳代は、席を跨いで彼らの前に立った。
「何やってんのッ!アンタたちッ」
突然の怒声に、彼らは固まった。
「試合見に来てるのに、チアガールのお姉さん見てニヤニヤしてッ!」
あまりの大きな声に、青葉の連中ばかりか光陵の応援団も振り返り、クスクスと笑っている。