やっぱすっきゃねん!VL-14
「どうだった?」
信也は俯いた。
「…マウンドの方が楽だな」
「そうかい」
「ああ…」
互いに目を合わせない。グランドを見つめるだけだった。
「ど…ナオちゃん、どうしたのッ!」
尚美の異変に、佳代と有理、それに直也までも気づいた。
目元にハンカチを当てて、泣きながら戻って来たのだ。
「何か、ひどいこと云われたの?」
佳代と有理の視線が直也に向いた。
「ちょっと待てよッ!オレを睨んだって…」
「…ちがう…ちがうの…」
そう云ったきり、ひざに倒れ込んで泣き出した。
最初は嬉しさが。次いで喜びが。そして最後に、心の奥に隠した侘しさが消えていた。
涙が止まらなかった。諦めていた想いが、再び可能性をもったから。
佳代逹には、そんな尚美を見守るしかなかった。
両ベンチから選手がグランドに現れた。直後に、球場全体から拍手が湧き上がった。
「集合ッ!」
主審の合図に、選手逹が一斉にホームへ向かった。
光陵高校、入部商業の選手が相対してズラリと並んだ。
「入部商業と光陵高校による決勝戦を行います」
審判4人が姿勢を正す。
「一同、礼ッ!」
一礼の後、両校選手が散った。入部はベンチに、光陵はグランドに。
「さあ、いよいよだ…」
前のめりで見つめる佳代。観覧なら気は楽だろうと思っていたが、逆に緊張が走る。
光陵のピッチャーは、マウンドを丁寧に調節して練習を繰り返す。
すでに今日で3連投。大会での5試合すべて、ひとりで投げてきた。
「ラストッ!」
キャッチャーが中腰で構える。ピッチャーは、セットポジションから素早いモーションで腕を振った。
キレのよいストレートがミットを鳴らした瞬間、キャッチャーは小さな動きからセカンドへと投げた。
糸を引くような低いボールが、セカンドの小さなグラブに収まった。
「なにッ!あのクイック」
「凄いな…バッテリー共に半端ない」
ケタ外れのスピードと俊敏さを面りにして、思わず声をあげた佳代と、それに相づちを打つ直也。
投球練習が終わり、1番バッターが左打席に入る。入念に軸足を固めると、バットを短く握って小さく構えた。