やっぱすっきゃねん!VL-13
「いやあ、身長もだが、肩から腰が大きくなった。なあシンヤ?」
ふられた信也は、頷いた。
「…直也もそうだが、相当、鍛えられたな」
佳代は間髪入れずに答える。
「監督やコーチのおかげです」
途端に、渋い表情だった信也の顔がほころんだ。
「そのことを感謝しろ。託すモノがあるからこそ、おまえに厳くされるのだから」
その目は、佳代を経由して直也に向けられていた。
「…あのう」
突然、信也に向けられた声。それは、周りの喧騒さに掻き消されてしまいそうに小さかった。
「ナオちゃん?」
最初に、佳代と有理気づいた。次に直也、そして最後に山崎が理解した。
「行こう…」
4人は、まるで潮が引くようにその場を引き上げた。
「何…かな?」
残された2人の目が合った。
そぎ落とされたシャープな輪郭と反するように、全身はひと回り大きく見える。
佳代に聞かされたままの信也を見つめているうちに、尚美の中にある“消えぬ想い”に火がついた。
「あの…野球部に…マネージャーって居るんですか?」
突然の問いかけ。
「いや、今はいないが」
飾り気のない答え。
尚美は覚悟をあらわす。
「じゃあ来年、わたしが入学したら、マネージャーになります」
もちろん平常心ではない。云った後、手も足も震えだし、呼吸もままならない。
そんな尚美の気持ちを知ってか知らずか、信也は、何のリアクションもなく云った。
「その時は待ってるから…」
一瞬、耳を疑った。それほど、尚美にとっては信じられない言葉だった。
つい、確かめたくなる。
「わたし、本気にしちゃいますよ?」
精一杯の“背伸び”を試みる。すると信也は、硬い笑顔を尚美に向けた。
「ああ、頼むよ…」
云った途端に形勢は逆転した。
視線を外して席へと戻る信也に対し、尚美は、こぼれんばかりの笑顔で、離れ行く背中を追い続けていた。
「ふう…」
ひと呼吸着いて席に腰かけた。となりの山崎は、チラリと見てグランドに目を向けた。