やっぱすっきゃねん!VL-12
「分かってるからデカい声出すんじゃねえよッ」
こうして、揃った4人が階段へと進むと、目付け役である永井と葛城が待っていた。
「監督ッ、野球部の方に挨拶に行かせて下さい」
先頭にいる直也が訊いた。永井はしばらく黙っていたが、
「分かった。試合開始まで幾らもないからな」
「ありがとうございます!」
一応、釘を刺して向かわせた。
「ところでさ…」
広い階段を降りながら、佳代は直也に耳打ちする。
「有理ちゃんの向こうの席、中里が座ってるけど、変わってもらったら?」
「…おまえ、いい加減にしろよ」
直也の頭に、昨日の感情がぶり返す。
しかし佳代は気づいていない。
「そう。じゃあいいや」
「ちょ、ちょっと待てよ」
あっさり話を閉じようとするのを、直也は慌てて止めた。
「それ、中里に云ってくれないか?」
佳代は柔和な顔で笑ってる。
「…分かった。云っとく」
そして階段を降りて行くと、ひとりの選手が手を振っていた。
「ナオヤァーッ!」
山崎の声が聞こえて来た。
「山崎さんッ、久しぶりですッ」
「待ってろッ、そっち行くから」
山崎はそう云うと、となりに座る信也の顔を見た。
「オイッ、青葉の連中、来てるぞ」
「そうだな…」
なんとも他所々しい口ぶり。山崎はすぐに原因が分かったが、あえて無視した。
「どうかしたのか?」
「いや、何でもない」
「そうか、だったら行こう」
強引に連れ出す山崎。彼も佳代と同様に、おせっかいな部類だ。
「お、おいッ」
「いいから、いいから」
長年バッテリーを組む間柄。おそらく、実弟の直也よりも信也の性格を解っている。
野球以外では臆病なことも。
「久しぶりだな、直也に佳代ッ」
「久しぶりですッ!山崎さんッ」
声を弾ませた山崎に応えたのは佳代だけ。有理は小さく会釈をしたが、信也も尚美も直也も、何も云わない。
「直也もそうだが、佳代。おまえ、デカくなったなあ」
「もうッ、気にしてんですから云わないで下さいよッ」
恥ずかしさから、思わず山崎の肩を押した。