やっぱすっきゃねん!VL-11
「さあ、河原さんに挨拶しろ」
キャプテン達也が1歩前に出る。
「よろしくお願いしますッ!」
達也の号令とともに、全部員が一斉に頭を下げた。
日頃、高校生を相手する河原にすれば、あどけなさの残る仕草に自然と微笑んでしまう。
「こちらこそよろしく。今日だけはウチを応援してやってくれ」
河原に促され、青葉中の部員は行儀よく空席を埋めていった。
「ヨシッ、行こうよ」
佳代は席に荷物を置くと、両となりに座る尚美と有理を急き立てた。
「ちょ、ちょっと待ってよッ」
有理は行こうとしたのだが、肝心の尚美は動こうとしない。
「何?早くしないと、始まっちゃったら行けないよ。それでもいいの?」
「でもさ…」
「いいから、ほら」
佳代は尚美の腕を掴み引っ張った。
「うわッ!」
足がよろけ、佳代の方へ引き付けられた。
「さあ、行くよ」
「分かったわよッ、だから手を離して」
強引なやり方に、尚美は頬を膨らませる。佳代が手を離すと、手首をさすりながら、
「この怪力おんなッ」
ささやかな抵抗を見せる。
「なんとでもいって…」
半ば無視して佳代は歩いていく。
「ナオちゃん、行こう」
後ろから、優しい声がかかった。振り返った尚美は、声と同じ有理の表情を見た。
その途端、胸の中にあったモヤモヤが、少し軽くなった。
尚美の顔に笑みが戻る。
「分かった」
そう有理に答えて向きなおると、前を行く佳代の頭を軽くこずいた。
「いったァ…いきなり何すんの?」
「さっきの手首のお返しよ。結構痛かったんだから」
「それは、ナオちゃんがグズってたから…」
「わかってるッ。覚悟決めたからさ、行こう」
佳代は驚く。こんな尚美、見たことがなかったからだ。
「うん…そうだね」
不可解でたまらないが、こんな場所で訊くわけにもいかない。佳代は胸の中にしまい込む。
「ナオヤァーーッ!行くよォ」
席のはじめ、階段付近に座る直也は佳代の声に席を立った。