星降る夜にきみを想うこと-5
「おお」
「…大漁だね」
お互い、弾んだ声を発する。紗依ちゃんが、大きく振り仰いだものだから、退け反ってふらついた。
思わず抱き止める。
「大丈夫?」
紗依ちゃんの顔を覗き込むと思いがけず赤い顔がそこにあった。
「なに緊張してるの」
ふふと笑いながら揶揄すると、紗依ちゃんは身体を強ばらせたまま、照れ隠しに小さく笑った。
その表情はまだあどけなくて。
でも最近は時々はっとするような大人びた顔をみせることもあって、その度にどきりとする。
あの時だって―。
もう一ヶ月前のちょっとした事件を思い出す。
まだ柔らかな感触が頬に残っている気がして、俄に気恥ずかしくなる。
彼女に触れていた手をそっと離して、誤魔化すように煙草の火をつけた。
何だかいつもと少しだけ違った空気が流れて、俺たちを戸惑わせた。
帰りの車内、助手席で紗依ちゃんは欠伸を繰返し、目を擦っている。
未成年をこんな時間まで連れ回してしまった。罪悪感とともに賢治さんの顔が浮かび、ちょっと怯える。
「寝てな。着いたら起こすから」
紗依ちゃんの細い肩が何だか寒そうで、俺のパーカーを放った。
「ありがと」
パーカーをかけてシートに身を預ける。暫くすると規則正しい寝息が聞こえてきた。
昔とかわらない大きな瞳は閉じられていて、睫が色白の頬に影を落としていた。
横目で彼女の寝顔をみて、大きくなったなと思う。
*
出会った時のことはよく覚えている。
長身の賢治さんの足許に赤いヒラヒラがしがみついていた。
よく見ると、それは赤いワンピースを着た小さな女の子で。
乱暴で横暴なジャイアンのような二人のこどもなら、どんな凶悪な面かと思いきや。
真っ赤な頬っぺたに、黒く大きな瞳のその子は、思いのほか―。