星降る夜にきみを想うこと-4
*
「…星がみたい?」
そりゃ、安上がりで良かったな〜と呑気に賢治さんは言う。
「紗依ちゃんの中で『星の王子さま』が空前のブームらしくて…」
幼稚園でくだんの話をモチーフにした紙芝居をみたらしい。
「5歳児にしてあんな難解な話を理解するとは。さすが、俺の娘」
「何言ってんすか。星なんてどうやってプレゼントするんすか」
「…隕石とか?」
「紗依ちゃん絶対に泣くからやめてください」
何とか頭を悩ませて、俺は紗依ちゃんをプラネタリウムに連れていくことにした。
本物(隕石)はどうみてもただの石ころだし、何より夢がない。
人工的に投影された偽りの空間だったが、紗依ちゃんは思いのほか喜んだ。
それから、二人で夜空をよく見上げるようになった。
星よりとても大きくみえる、黄色い月が彼女のお気に入りで。
月が冴え冴えと良くみえる日なんかは、俺が肩車した上から遥か遠くのまあるい衛星に手を伸ばしたりした。
俺はいつしか紗依ちゃんにどっぷり感化され、天体に興味をもつようになったのだ。
「あそこの赤いやつがオリオン座のべテルギウス、一番光ってみえるのがおおいぬ座のシリウス、右下の方にあるのがこいぬ座のプロキオン。この三つが冬の大三角だよ」
両目にきらきらと星を宿して俺に教えてくれた。
*
「雅成くん。眠い」
「…お嬢さん。今着いたばかりですが」
アパートを出るや否や車で、近くの山へ向かった。山頂付近の視界が拓けたところで、停車して紗依ちゃんと並んで空を眺めている。
時刻は深夜0時を少し回ったところ。
暗闇の中で見上げる夜空は鮮明で、星の瞬きで溢れている。
「あっ」
「流れた?」
「流れた。あそこ」
紗依ちゃんがあの頃と同じ笑顔で指差す。
その笑顔が今の俺には眩しくて、少しだけ目をすがめて、彼女の指先をたどった。