星降る夜にきみを想うこと-2
「さっ紗依ちゃんか。びびびっくりした。…壁の精かと思った」
「そこはすっとぬりかべでいいと思う」
壁の精って。全力で可愛くないし。…そもそも壁の精って何だ…。
「彼女?」
私が尋ねると雅成くんは曖昧に笑う。
「いや。同僚」
「ほほう」
ちょっとの間、天使が下りてきて、雅成くんの煙草に火をつける音がやけに大きく聞こえた。
彼は私に煙がかからないように顔を背けて煙を吐くと、私の荷物にちらりと目をやった。
「…どうしたの。賢治さんと喧嘩でもした?」
雅成くんのアパートは私の緊急避難所だ。
両親と喧嘩して、家に帰りたくない日はここを訪れた。
築20年以上の古いアパート。けれど中は意外に広くて、日当たりも良好。
雅成くんは何も聞かずに私を迎えてくれて、一晩泊めてもらった翌日は必ず一緒に謝りに行ってくれた。
私が何度も訪れるから、雅成くんはこの古いアパートに学生の頃からもうずっと住んでいる。
でも、今日は―。
私は、本来の目的を思い出す。
「今日、何の日か知ってる?」
「今日…?」
やっぱり憶えてなかったか。彼は、煙草の火を消して思案する。
「ごめん。分かんないや」
「オリオン座流星群。今日がピークだよ」
私が言うや否や彼はぱっと顔を輝かせた。
…仔犬か。
*
望遠鏡を覗くと、きみは呆れたように笑うけど、そもそものきっかけはきみだったんだ。
恐らく、きみは憶えていないだろうけど。
「賢治さん。もうすぐ、クリスマスですけど、紗依ちゃんの欲しいもの聞きました?」
「いや。まだだけど」
ソファで雑誌を繰っていた暴君・ネロ、もとい賢治さんは顔も上げず当然の如く言い放った。