未少年 3-1
「…で?」
「でね、後から聞いたらさ、その××病院からサンダルで歩いて来たんだと…」
「えー!?あむのとこからその病院とこまでかなりの距離あるよね…」
「そう…。だからよく見たら足に血豆出来ててさ、てか血出てたんだよ…」
「マジかー…。で?」
「んーでね、今も家にいる」
「マジ!?大丈夫なの!?」
「多分…大丈夫なんじゃないかなー…。だってほんと子供みたいなんだもん…」
「いやーでも…にわかには信じがたい話だけど…」
「当事者の私でさえ未だに混乱してるくらいだから…無理もないよね…」
「うん…。で、その記憶障害とやらは…どの程度なの?」
「んーとね、昨日あの後も暫く話してみて分かったんだけどね、まずまぁだいたいの日常会話はそれなりに出来るんだよね。ゆっくりだったり間違ってたりもするけど、向こうから話し掛けてもくるし」
「うんうん」
「あとね、ある程度の生活に必要な知識とか常識もあるっぽいんだよね。例えばシャワーとかトイレも自分でだいたいは使えるし、お金の使い方とかも何となく分かってるっぽい。あと箸も使えたし。昨日なんて“腹減った”みたいなこと言ってきたし…」
「へーっ…」
「ただ自分に関するパーソナルな部分がぽっかり抜け落ちてて。自分の誕生日とか歳とかも覚えてないんだよ。自分の名前は“人がそう呼んでくるからその名前なんだ”って感じだし」
「はぁー…」
「あ、でもね、好きだった音楽の知識っていうか記憶は部分的だけどあるっぽいの。部屋でSOUNDGARDEN流したらさ、アーティスト名と曲名まで当てて。“多分好きだった”って…」
「へぇ〜…。じゃあ逆に彼のそういう部分を発見してって繋いだらさ、元に戻りそうじゃない?パズルみたいにさ」
「そうかもしれないけど…そう上手くいくかなぁ…」
「保証は全く無いけどね…」
「でしょ…?あっ、そういえばね、タトゥー入ってたんだ。腕とか腹とか結構なモンで」
「ほーっ。タトゥーねぇ……まぁ今頃珍しくもないし私らも入ってるからねぇ…」
「そうだけど、何かヒントにならないかなーと…」