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脅迫文=恋文?
【コメディ 恋愛小説】

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思い出=とても大切なもの-1

1 どうもみんな、はじめまして。
………え?
はじめてじゃない?
……すいません、俺は今……記憶喪失になってるんだ。


『思い出=とても大切なもの』


俺が目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。最初に目に入ったのは、病院の白い天井…そして、俺を喜びと心配の感情を含んだ瞳で見る……とても綺麗な女の子だった。
「……憲!!」
「お、起きた!!」
綺麗な女の子が俺の名を呼び、独が顔を出した。
「一安心だな……」
「……まったく、心配させて!!」
親父に母さん……。
「俺……なんでこんな所にいるんだ?」
「覚えてないのか?事故った車が突っ込んできて、お前を撥ねたんだぞ」
「え……?」
「打撲も軽かったけど、頭うってもう二日も寝たままだったのよ」
母さんが独の言葉に続いた。
事故……、撥ねられた……?
「ほら……矢城も文句言ってやれ」
「うん……良かった、無事で」
独に促されて、女の子が俺の手を握る。
……………わからない。
「ごめん、君は……誰なんだ?」
その瞬間、空気が氷ついた。
「……え?」
彼女の顔がこわばった。
「け、憲!!悪ふざけはやめろ!!」
「いや、独。本当に、彼女は誰なんだ……?」
そういうと、みんなの顔が氷ついた。
「ほ、本当にわからんのか!?お、お前の恋人の矢城白雪さんだぞ!!」
親父が思わずという風に叫んだ。
「………へ?」
今度は俺が氷つく番だった。

 

医者が言うには、この記憶喪失はいつ治るかはわからないらしい。明日治るかもしれないし、十年後かもしれない……。
それにしても、記憶喪失になって、しかも俺は都合悪く…恋人を完全に忘れてしまうなんて、漫画だけだと思っていたシチュエーションが俺自身に降りかかるとは……。世の中、何が起こるかわからないな。
しかし、俺は本当に彼女の恋人だったのか……?彼女は美人だ。目の覚める様な、俺が覚えてる女性なんかよりずっと……。
だが、まったく実感が湧かない。だいたい、彼女が大切な人だったら……俺は忘れないと思う。
「………おはよう」
「……うん」
三日ほど入院して、退院した日の翌日の朝、彼女が俺の家に来ても、すげぇ気まずい。
独や両親の言葉が本当なら、彼女にとって俺の言葉はすごくショックな筈だ。
「その……ごめん」
「え……?」
彼女を後ろに乗せて自転車を漕ぎながら、俺は彼女に謝った。
「俺、矢城さんの事……覚えてなくて」
「………ううん。憲は悪くないさ。好きで記憶喪失になったんじゃないもんな」
その通り……。だが、それでも申し訳ない気持ちが心を満たす。
「それに、アタシの事……ちゃんと白雪って呼んでくれよ」
少し、男言葉が気にかかったが、凛とした声だった。
「わかった…白雪」


 

学校に着いたら、俺はクラスメイト達から質問攻めを受けた。
どうも、母さんが担任に電話したらしい。
とりあえず、クラスメイトの半分は何とか覚えていたが、去年から同じクラスらしい八木さん、それに白雪の双子の兄らしい孝之、白雪の親友であるらしい隣のクラスの白木さんの事は覚えてなかった。
「白雪を泣かしたら、殺すからね!」
これは白木さんの言葉。目に殺気が篭っていたからマジで怖かった。
俺が記憶喪失になったと言うのは、その日のうちに全校に広まったらしく、休み時間に俺を見に来る輩があとを絶たなかった。動物園の動物の気持ちがわかる気がした。
「はぁ……」
放課後になればもう俺はくたくただ。肉体的にではなく、精神的にだ。正直、記憶喪失なだけでも精神的に辛いってのに。俺、今度から野次馬になる事はやめよう。
「疲れたか……?」
「あ……うん」
後ろに乗った白雪が聞いてきた。
一緒にいた方が何か思い出すかもと言われ、今日はほとんど白雪と一緒にいた。今も帰り道だ。
「みんな、遠巻きに俺をジロジロ見るんだよ」
「そっか……」
「うん………」
…………会話が続かん。き、気まずいぃ。
「……なぁ、憲。す、少しは思い出した?」
「……え?」
「アタシ達が、最初にキスした場所…覚えてる?」
……キスしてたのか?な、なんか恥ずかしい。
しかし、覚えてない。こんな嬉しい事ぐらい残しとけよ、俺の脳みそ。
「……ごめん」
「……じゃあ、舞姫祭に行ったことは?」
「…………………。…駄目だ、思い出せない」
頭に靄がかかった感じがする。多分、その靄の向こうに俺がなくしてしまった記憶がある。
でも、どうやっても靄は晴れない…。
「……い、急ぎすぎたな。ごめん、ゆっくり思い出してよ」
……謝るのは、俺の方だ。彼女が一番辛いはずのに。
罪悪感が俺の心を支配していく。
結局、その後は無言のままに時は過ぎた。


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