……タイッ!? 最終話「告白しタイッ!?」-1
「声出していこー」
「おーっ!」
合宿組みが戻って最初の月曜日。キャプテンである久恵の号令のもと、集団で校外ランニング。
真面目といえばそうなる彼女だが、それでもこの変わりようは部員たちからすれば意外そのもの。
「ねえ、私たちがいない間にキャプテン何かあったの?」
「知らないよ。もう……」
里美は隣を走る理恵に聞くも、最近トレーニングを怠けていた彼女はすでにわき腹を押さえて苦しそう。
「ふふふ。アレは恋してるのよ」
そんなおり、首を突っ込むのは陸上部の問題児、紅葉だ。
「先輩が恋?」
三つ編みと地味な黒縁眼鏡の久恵に限ってそれはない。
合宿前ならそう思えたものの、久しぶりに見た彼女は大幅なイメージチェンジを行っていた。
まず髪は肩にかかる程度に切りそろえ、外側にはねさせて色を抜いている。
目元のメイクも行っているらしく、まつげがしっかりカールしている。
スタイルこそ変わらないものの、仕草に若干の違いがある。例を挙げるのならマネージャーと事務的な話をする際、みょうになれなれしく肩に触れること。そして距離だろうか?
「そう。恋なのよ」
紅葉は自分だけは知っているという様子でそのままうんうんと事故解決して去っていく。
「なんだろ。紅葉先輩」
「さあね、あの人はいつもあんな感じだし」
「そうかな? いつもならもっとセクハラしてくるとおもうんだけど……」
「なら、紅葉先輩も恋してるんじゃねーの?」
二人の間にずいと割り込むのは日吉綾。長距離走を選択している彼女にはこの程度の練習は文字通り朝飯前にこなしている。
「紅葉先輩が?」
意外そうというよりは不愉快そうに里美は低い声で言う。
「まね。だってあの人確か好きな人いるとかいないとか……」
「ほらほら一年! 無駄話しないの!」
綾に隠れて自己主張するのは前園美奈子。今日も小さな背丈を大きく見せようと一センチ底上げしてあるシューズで走る。
「はいはい、よーし、相模原女子陸上部! がんばろー」
体育会系ならではのとりあえず気合をいれてごまかしてしまえ作戦。コウを労したのか美奈子は満足げに前へと行く。
「んー」
「どうしたの? 理恵」
「なんか変だよね。みんな」
「そう?」
「だって変に元気いっぱいなんだもん。夏休みももうすぐ終わりなのに」
思いつくことといえば週末の相模神社で行われる夏祭り。それが終われば二学期だが、それでも楽しみは楽しみだ。
里美もそれに例外ではなく、妙な興奮があった。
「やっぱりお祭りかしら?」
「お祭りだね。そういえばサトミンは誰と行くの?」
「え? ああ、私はちょっと約束してるから」
「ふーん。そうなんだ」
「うん。あはは」
「へ、うふふ」
お互い妙に乾いた笑い声を上げてしまうのは偶然なのだろうか?