……タイッ!? 最終話「告白しタイッ!?」-4
*―*
水曜日。
タオルを干すもどれもしわだらけ。いつもなら気をつけているのに、今日は一つ一つが上の空。
その理由は昨日の美奈子の誘惑が原因。
――午後六時、鳥居で待ってる。無理にとはいわないわ。ただ、少し、ふふ、悪い先輩ね。でも、来てくれたら嬉しいの。
別れ際、彼女ははやる唇に人差し指を押し当ててキスを遮った。
それが悔しく、ずるく、期待させた。
――俺ってどうしてこんなに流されやすいんだろ……。
ダブルブッキング。しかも女子二人とお祭りに行く。クラスの男子が聞いたらなんというのかわからない、少なくとも半分は殺される内容に紀夫は内心心細くなっていた。
――やっぱり断らないと! うん、そうしよう。
「うわっと!」
紀夫が決意を固めると同時に視界が布で覆われる。今さっき自分でぞんざいに干したばかりのタオルが巻きついたのはその恨みだろうか?
「わ、わわ、うぐぐ」
締め付けを増すタオルに紀夫はそのまましりもちをついてしまう。
「はっはっは。だせーな、紀夫はさ」
「綾さん……」
振り向けば太陽に隠れて豪快に笑うのは綾だった。もともとの彼女がどのような性格は知らない紀夫だが、これなら少し前の距離をとる彼女のほうが良かったとも思えてくる。
「もう綾さん酷いよ」
「里美に浮気しようとした罰なのじゃ」
「な、俺は浮気なんて……」
「誰だよ? 夜這いするなんていったのはさ」
「あ、アレは紅葉先輩に騙されて」
「怪しいな」
「怪しくなんか……ないさ」
里美に対しては確かに怪しくない。けれど夜這いに関しては?
するほうではなくされるほうであり、まったくの白とは胸を張れないのも事実。
「ふふん」
「はは」
「ははは……」
「良かった。綾さん元気そうでさ」
「ま、な。うん。感謝してるさ」
豪快な彼女の繊細な微笑み。きっと本当の彼女の顔なのだろう。
ちょっとした行き違いが彼女を硬質化させ、自分の熱くなった下心がそれを溶かし
た。
紀夫だけが知っている本当の彼女。いやらしい彼女。
「なあ、そのお礼してなくね? あたし」
「え? そんなことないさ。俺も調子に乗ったし」
「いやいや、それじゃあたしの気がすまないっての」
「そう? それじゃあお言葉に甘えて……もらえるものはもらっておきます」
「うむ、苦しゅうない。それじゃあ褒美に綾様の一日エスコート権を進呈しよう。今度の土曜日は決まりだな?」
「え? もしかしてお祭り?」
「ああ、んじゃ頼んだぞ。あたし的屋の手伝いあるけど、休憩とかいって抜け出すからさ。迎えに来てよ。お願い!」
「ちょっと綾さん……」
走り去る綾を呼び止められないのはきっと彼女が見せたはにかむ笑顔のせい。
自分だけに見せてくれる素直な顔は二人でシーツを汚したとき以来のことなのだし。