……タイッ!? 最終話「告白しタイッ!?」-36
「あんなのダメ。やり直し」
「やり直したら……いや、ゴメン」
これ以上蒸し返すことに意味もないと、石段に留まる小石を蹴る。
「人、もういないね」
「うん、二人だけだね」
「なんで帰らないの?」
「だって、そしたらもう、里美さんと、こうしてられない気がして」
「そうだね……」
「そう……」
頑なな彼女の気持ちは変わらないらしく、立ち上がると同時にその手も離れる。
「いい? 君はこれからも陸上部のマネージャー兼雑用だからね。さぼったり女の子に手をだしちゃだめ」
「……うん。わかったよ」
「それじゃ、もう帰ろ」
そういって里美は軽快にジャンプする。
紀夫はまだ未練があるのか、ゆっくりと石段を降りる。
もう見込みが無いのは承知のこと。かといって陸上部に別れを告げる必要も無い。
逆に言えば、里美の目を気にせずに自分を慕ってくれる彼女達になびけばいい。
むしろ、下半身については好都合。
「はぁ……」
にもかかわらず、口から出るのはため息ばかり。
こんなとき、理恵ならなんていってくれるだろうか? 綾なら? 美奈子なら、キャプテンならなんて言って慰めてくれるのだろう。
物理的にも精神的にも一人になることはない。なのになぜ? どうしてため息しか出ないのか?
少し肌寒い風が前髪を揺らすと、そのまま道路わきに倒れそうになる自分が情けない。
祭りの夜だけ臨時に設置される青空駐輪場までもう少し。けれど後ろ髪を引かれる
のが事実。
「ほら、なにとろとろ歩いてるの?」
「え?」
どんと背中を押されてよろけること数歩。振り返れば愛しくも悲しい想い人。いまさらなんのために自分をせかすのかわからず、ただぼんやりするばかりの紀夫。
「もう、家に帰るまでがデートでしょ? ね、今日は送っていってくれるよね」
「あ? あ、ああ、うん。もちろんだよ」
「よかった。やっぱなれないもの履くもんじゃないよね」
「でも、すごくかわいいよ」
「こいつ、うまいこといって何する気?」
「あはは、ばれたか……。それじゃ自転車取ってくる。待ってて」
「うん。早くね」
駐輪場へ向かう紀夫は急ぎつつ、またあふれ出した気持ちを腕でぬぐった。
*―*
「私ね、最近、気になる子がいるんだ」
「え? 誰……!?」
自転車の荷台に女子高生を一人乗せて走る紀夫。ライトは最近不調で灯りが薄く、こころもとない。
そんなおりに聞かされる里美の気になる発言。
既に自分はその対象にないとしても、どうしても気になってしまう。
「誰?」
「ふふ、内緒」
そういって背中にきゅっとしがみ付く里美。
それだけで充分。
そんなにスピードを出していなのだし。