ヒミツの伝説-16
終章
野球場が大きく沸き、三塁、萬町高校側のスタンドの応援が最高潮に高まった。9回の裏の攻撃である。点差は1点のビハインドだが、ツーアウト満塁。一打逆転のチャンスである。
「代打、向阪!」
宮内が審判に告げた。
バッターボックスに弘志が向かう。
「かっとばせーっ、向阪っ!」
スタンドの応援がひときわ大きくなる。
「弘志クーン、がんばってーっ!」
スタンドで奈月が叫ぶ。弘志が頷いた。その手に握られているのは、あのバットである。
バッターボックスに弘志が入る。
大柄な相手チームのピッチャーが思い切り腕を振り上げてボールを投げる。威力のあるストレートが、難しいコースに入ってくる。しかし、弘志に迷いはなかった。
「カキーン!」
小気味よい金属音とともに、ボールが飛び、その高さに合わせて大きな声援が三塁側から上がる。
「いく、いく、いくーっ!」
奈月が祈るような思いで叫んだ。
弘志の打った打球は、大きくアーチを描いて、スタンドに飛び込んだ。