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うたかた
【理想の恋愛 恋愛小説】

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うたかた-1

「王子、メールとかできるよね?」

姉が御手洗いに行った隙に、わたしはすかさず聞いた。

「ええ。仕事でも欠かせませんので…」

良かった。こちらが思っていたより世慣れている。

わたしは、手帳を乱暴に破って文字を綴った。
くしゃりと王子に手渡す。

「姉のメールアドレス。携帯のだから受信したらすぐ分かるよ。その下は、携帯の電話番号。そんでトドメの住所」

王子はしげしげと紙切れを眺める。

「もう二度と会えないなんてことにならないように。文明の利器に頼ってでも。姉のこと、好きなんでしょ?…すぐ連絡して」


「ありがとう」

王子は少し顔を紅くして、微笑んだ。

「私からも、一つお願いがあるんだけれど。その手帳の紙、もう一枚もらえる?」



姉が戻ってきた。
いよいよ別れの時が近付いて、誰もが少し無口になる。


「裏に車を用意してある。空港まで、送らせよう」


天井が高く、長い廊下を足音を立てて進む。

突き当たりの階段を降りてしまえば、そこはもう玄関だ。


―日本に帰るのだ。


先頭を案内するように王子が歩く。広い歩幅で進む姿はやはり大層、優雅にみえる。姿勢が美しいせいもあるだろう。

その後を、漆黒の髪をなびかせた妖精のように可憐な姉が追う。



少し離れてしんがりを務めていた、わたしの腕を誰かが掴んだ。

驚いて、顔を確認する間もなく、柱影で抱きすくめられた。

「…もう、お帰りになるのですね」

耳元で囁かれる、流暢な日本語。
キアラルーンだ。

「…うん」

わたしが仕方なく、そう呟くと再び、力を込めて抱き締められる。

「また、会えますね?」

わたしの瞳を真っ直ぐ射て、キアラルーンは尋ねる。前向きな、相手に肯定を促す尋ね方だ。

勿論、わたしは肯定を返す。希望も含めて。


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