うたかた-3
「そんな泣きベソには、いいものあげないぞ」
「いいもの?」
きょとんとして、振り返った姉の表情はコケティッシュで。
本当に人形のように愛らしい。一国の王子が好きになるのも無理ないなあと思う。
「これ、なーんだ」
わたしは、わざと意地悪く姉の前で紙切れをヒラヒラ泳がせた。
「…うそ」
薄い紙を掴んで、見入る。
大きな目を更に見開いている、姉。
「ほーんと」
「いつの間に…」
信じられないというように再び姉が呟いた。
そこには美しい筆記体で、王子のEメールアドレスと王子直通の電話番号が書かれていた。
「ほしい?」
答えは分かりきっていたけど、姉の動揺が可愛らしくて、ついつい意地悪をしてみたくなるのだ。
「…ほしい」
姉は、泣き笑いのような表情で、言った。
儚くて、でも瞳の奥には熱を秘めた姉の眼差し。
褐色の肌をした、麗人。
年中暑いこの国。
辛い食べ物。
うたかたのように頼りない、この思い出を抱いて。
次にまた紡げるように、大事に守るよ。
手にした泡をあなたにそっとなげれるように。
このうたかたのような恋をきっと、夢に終わらせない。
―完―