富子艶聞-1
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時は、室町時代中期――――
西暦に換算すれば、1465年頃――――
京都の中心部に位置し、 帝が住まいかつ国家の中枢の一翼を担う場所・内裏―――
日は既に西の地平線にとうに傾き、辺りは漆黒の闇と冷たい寒気の中に包まれていた。
気づけば 空には無数の星が瞬いている。
その星空の下にある広大な御所の中で、寝殿造の建物の一角。
そこに数日前から内密ながらも滞在している1人の高貴な女人がいた。
彼女の名前は、
“日野富子"――――
室町幕府8代将軍 足利義政の正室、つまり将軍御台所である――――
なぜ将軍の正室である彼女が 本来の住まいである将軍御所ではなく
帝の住まう御所に滞在しているのか。
そうした“疑問"に対する答えを得た上で
今その富子を御忍びで訪れようとする1人の若い、ある意味当時の日本で一番高貴な人物がいた。
彼の名は後土御門帝――
第103代天皇―――
まだ20代中頃で、決してとびきりの美男というわけではないが、若々しさと奥ゆかしさはうまくその身に集約させたような雰囲気は持っている。
既に昼間の内に公務は終え、かつ今回は御忍びということもあり
その装束は比較的身軽で簡素なものだった。
“将軍義政殿は、早くから隠居した後に芸術三昧の生活を送りたかったようにございます。 "
「・・・・・・」
“されど御台所様には未だに男のお子に恵まれず、
これに対して義政殿は僧籍に入られていた弟君を還俗させて 跡を継がせることに決めたとのこと "