恐るべき子供たち-4
「…あの、手を握られるなんて初めてだから」
そう答えて俯く姿に、寺内は妙な興奮を覚えた。
「…そ、そうだよね。突然で驚いちゃったよね」
汚れを知らない純真無垢な少女を愛でる寺内にとって、由美は理想的な存在だった。
「それじゃあ始めようか」
「…はい」
気を取り直し、ビジネスライクな表情をすると、仕事に向かった。
「どうしたの?さっきから集中してないわよ」
「すいません」
「ダメよッ、受験まで幾らもないんだから」
「はい…」
同時刻。智も自室に家庭教師を迎えて勉強に勤しんでいた。
綿密に計画したとはいえ、必ず成功するとは限らない。最悪のシチュエーションが頭をよぎり、勉強に集中できないのだ。
「ほらッ、またあッ!」
「あ、すいません」
家庭教師の凪野からヒステリックな声が飛んだ。
頭を下げながら智は凪野の方を見る。胸元まで伸ばした髪、くたびれたトレーナーとジーンズが、豊満な肢体を隠していた。
化粧っ気のない顔に異性を意識したこともないような服は、とても19歳の女性がする格好とは思えない。
「…じゃあ、次の問題を解いて」
「はい」
凪野に促され、智は机に向かった。
だが、その顔は不気味な笑いを湛えていた。
「では、3で割っても5で割っても1あまる整数で最小のモノは?」
「ええと…」
由美はノートに問題を書き写す。上から見つめる寺内の目は、計算のプロセスなど見ていなかった。ただ一点、開いた胸元を凝視していた。
いつもは、長袖シャツにジーンズなど露出の少ない格好なのに、その夜はキャミソールにショートパンツといういでたちだった。
「…3と5の最大公倍数だから…」
机に向かう由美。キャミソールは大きくたわみ、胸元ばかりかお腹の辺りまで覗き見えた。
(先は…胸の先っちょは見えないかな)
寺内は角度を変えてキャミソールの中を見る。
だが、由美は十分、異様な行動に気づいていた。
「…15だから、1足して16ッ!先生ッ、答えは16です」
振り返り、寺内の顔を見る。彼は慌てたように視線を逸らした。
「あッ、ああ…」
「どうかしたの?先生」
必死に平静を装うと、
「…いや、何でもないよ。じゃあ、次の問題だ」
逸脱しそうになった自分を律した。