恐るべき子供たち-3
「…どうだ?」
智の口唇が耳元から離れた。
「すごいッ!素晴らしいわ」
由美は、すっかり興奮してしまった。対して智は、冷静に言葉を続ける。
「しかし、下手すりやおまえが危ないんだぞ。こういうことは、綿密に計画しないとな」
「わかったわッ!明日の放課後に計画しましょう」
嬉しそうな表情の由美。見つめる智の顔も自然と微笑んだ。
「帰ろう」
「そうねッ」
2人は道を駆け出した。
あの日から3日が過ぎた金曜日の夜。由美はいつものように、自室で家庭教師が訪れるのを待っていた。
家庭教師の寺内は、家庭教師派遣を生業とする企業に所属しており、志望校合格率の高さは業界ナンバーワンだと有名だ。
故に、母親は来年の中学受験のためにと依頼したわけなのだが、由美にとって寺内は“気持ち悪い”存在でしかなかった。
25歳という若さだが、そのボサボサの髪と小肥りの体型、それに脂ぎった顔は、お世辞にも好青年とは云えない。現に由美は初めて会った瞬間に、“嫌悪感”だけを抱いたのだ。
「由美、先生がおみえになったわよ」
ドアが開き、母親が寺内を従えて現れた。
「こんばんは、由美ちゃん」
表情のない目が、由美を捕らえる。
「センセイッ、よろしくお願いします」
いつもは寒気が走るのだが、今日は由美にとって大事な日だ。必死に気持ちを抑え、これ以上ないという笑顔で寺内を迎えた。
寺内は、そんな変化に気づく。
「どうしたの?ずいぶんゴキゲンみたいだけど」
「学校の成績が上がったの。これもセンセイのおかげです」
由美はペコリと頭を下げた。そんな態度に、寺内はまんざらでもない様子だ。
「まあ、ボクも苦労した甲斐があったよ」
「これからもお願いね、センセイ」
「由美ちゃんが志望校に合格できるように、これからも2人で頑張っていこうッ」
由美の手を、湿り気を帯びた掌が包んだ。
「あッ!」
思わず、力任せに手を引いていた。頭では分かっていても、心では我慢出来なかった。
「どうかしたの?」
「いえ…あの…」
寺内には、行動が不可解に映ったようだ。
由美はすぐに気持ちを切り替えた。