投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

想-white&black-
【女性向け 官能小説】

想-white&black-の最初へ 想-white&black- 77 想-white&black- 79 想-white&black-の最後へ

想-white&black-J-1

乗り込んだ赤色の観覧車は静かに上昇し、時々風に吹かれて軋んだ音を立てながら揺れる。

そんな二人きりの空間の中で私は、外の景色よりも麻斗さんの少し寂しそうな横顔が気になっていた。

楽しいイメージの遊園地には似つかわしくない翳りを帯びた眼差しは一体どうしたのだろう。

いつも明るく振る舞っている麻斗さんの意外な一面になぜか胸が痛んだ。

そんな瞳がふとこちらに向けられると優しく微笑む。

「どうした?」

「あ、いえ。えっとどうして最初に観覧車なのかなあって思って」

まさか横顔をずっと見つめていた、なんて言えずごまかすようにとっさに嘘をついていた。

普通観覧車と言えばデートの最後という印象で、一番最初に選んだのはなぜだろうという思いがあったこともありまるきり嘘という訳でもないが。

すると麻斗さんはああ、と小さく笑って答えてくれた。

「昔、ガキの頃一度だけ乗ったことがあるんだ。どこの観覧車だったかなんて覚えちゃいねえんだけど、楓と兄貴と一緒に乗ってさ。てっぺんなんか予想以上に高いもんだから俺なんかめっちゃびびってたのに、楓はしれっとしてるし兄貴は俺を見て笑ってるし。いい思い出でも何でもないけど、何となく覚えてて」

「麻斗さん、お兄さんがいるんですか?」

そんな話は初耳でつい聞き返してしまった。

「あ、言ってなかったっけ? 五つも上だし親父の会社手伝ってるから最近はあんまり会わねえんだけど。ありゃあたちが悪いから関わんない方がいいぜ」

何か嫌なことを思い出したのか、眉間にしわを寄せて忠告してくれる麻斗さんが何だか可愛く見えて微笑ましくなる。

悪口を口にしてはいたがそこから嫌悪感は感じられなかったので、多分仲のいい兄弟なのだろう。

「でもお兄さんとか兄弟がいるなんて羨ましいですよ。私は一人っ子だったから時々いたらななんて思いましたもん」

「そう? でもいたらいたでよく虐げられてきたぜ。どうしたってガキの時は口でも力でも勝てなかったし。また兄貴がよく頭の切れる野郎でいつも何かと俺が不利だったしな。それで困ってる俺を見て密かに楽しんでやがった」

麻斗さんの忌々しそうな口振りに一体どんな兄なんだと想像して顔がひきつりそうになる。

(兄弟……か)

ふと脳裏に家族の顔が浮かんだ。

私には兄弟や姉妹がいなかったから家族は両親だけだったけれど。

子供の頃、こんな風に遊園地に連れてきてもらったことを思い出す。

楽しくて、一緒に出かけたことが嬉しくて仕方がなかった事を覚えている。

両親はとても仲が良くて、いつも笑顔で溢れていた。

二人供とても大切で大好きでかけがえのない家族だった。

いつまでもこの幸せは続くのだと信じて疑いもせずに……。


想-white&black-の最初へ 想-white&black- 77 想-white&black- 79 想-white&black-の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前