想-white&black-J-8
「一体、誰がこんなこと……」
「俺だ」
「え?」
独り言のように呟くと、背後に立っていた楓さんが答えた。
その言葉に思わず振り向くと、楓さんはぞっとするような双眸でこちらを見やりすぐに部屋の中へと視線を戻す。
どんな感情なのかその眼差しからは読み取れない。
「どうしてこんなこと。これじゃあ寝るのもままならないんじゃ……、うっ」
言いかけて顎を長い指が捕らえた。
強制的に上を向かされ、額に額が重なり唇が一気に深く重なった。
驚きのあまり反射的に身体を離そうとしたが、反対の手でがっちりと腰を押さえつけられる。
舌で舌を捏ね回される度、口内の柔らかな感触はあまりに卑猥で口づけだけで足がたたなくなりそうだった。
どのくらいの時間唇を重ね合わせられていたのか、ようやく離れるといつも余裕を見せている楓さんですら呼吸を乱していた。
私はといえば腰が抜けそうになってしまい、楓さんの腕で何とか支えられている状態だ。
「寝るのもままならないだと? ああ、そうだな。お前達のお陰でここ一週間あまりろくに睡眠はとっていないな。そんな中お前らは仲良くいちゃついていたというわけか」
「……っ」
怒りを滲ませた瞳と声に恐ろしさが先立ち唇が震え、何も言えなくなる。
「なぜ逃げた」
問いかける言葉に逃げ出したくなった。
そんなこと言えるわけがない。
言った途端、惨めになるのは目に見えている。
そして何もかもを失ってしまうだろう。
だがヘイゼル色の視線が近すぎる私の眸を突き刺す。
「答えろ」
拒むことを許さない、上に立つ者の持つ特殊な空気は私をじりじりと追いつめていく。
本当のことは言えない。
それなのにこんな時に限って上手い嘘も言い訳も思い浮かばない。
むしろ何を言ってもその双眸に見透かされてしまいそうで怖かった。
いよいよだんまりを決め込むのも限界に近付いてきたとき、部屋のドアがノックされた。
「楓様、花音様。失礼いたします。お茶をお持ちいたしました」
ドアの向こうから聞こえてきたのは双子達のこえだった。
先程言いつけられていたお茶の用意ができたのだろう。