想-white&black-J-3
「花音とキスするの気持ちいい」
「や……っ」
わざと耳元で囁かれくすぐったさに首をすくめると、そこが弱点と見るや舌先が耳の輪郭に悪戯を仕掛けてくる。
しっかりと抱き締められて逃れようにもそれを許してはくれない。
「ほら、触ってみろよ。こんなにドキドキしてるんだぜ、俺」
麻斗さんはそっと私の手をとると自分の胸元に押し当てた。
そこには確かに速いリズムを刻む心臓の鼓動が皮膚を通して伝わってくる。
「こんなに緊張すんの初めてかも。他の子にはこんな風にならねえし」
「そ、そうなんですか?」
だめだ。
緊張で口から出る声が上擦って掠れる。
心臓が張り裂けそうなほど大きく鼓動しているのが知られてしまいそうだった。
恥ずかしさで俯くと、顎に指が滑り込みくっと上を向くように押し上げられまたあの瞳と視線が絡み合う。
再び寄せられた唇に思わず顎を引いた。
「あ、麻斗さん。もうこれ以上は……」
麻斗さんと二人きりになった時何度かそういう空気になったことがある。
だけどその度それを避けてきた。
麻斗さんも無理やり求めてきたりはしなかった。だが。
「ごめんな、もうスイッチ入ったから無理」
そう低く告げた彼の瞳の奧にははっきりと欲望の焔がちらついている。
今までとは明らかに異なる、『男』の目をしていた。
「麻斗さん、だめ……」
唇に、頬に、瞼に、額に、耳にとたくさんのキスを落とすと彼の手が腰のラインに下りてきて、裾から指が忍び込んできた。
直接肌に指が触れ全身に甘い感覚が広がっていく。
ゆっくり回る観覧車の中は密室で、まだ誰も手の届かない高い位置にいる。
本当に世界には私と麻斗さんの二人きりしかいないような気になってくる。
首を横に小さく振るのが精一杯の抵抗だった。
「花音、見せて。お前の本当の姿、俺だけに」
耳元で甘い声が響き、唇が触れて意識がどこかへ飛んでいってしまいそうだ。