想-white&black-J-2
「花音」
麻斗さんが突然立ち上がったかと思うと私の隣に座り直すと、ギュッと抱き締められた。
それは力強くて、苦しいくらい。
「あ、麻斗さん?」
どうしていきなり抱き締めてきたのか分からず頭が混乱する。
「悪い。何か悲しくなるような事思い出させちまったんだな。泣かないでくれ」
「えっ、え?」
慌てて自分の頬に指を滑らせると確かに涙が濡れていた。
「ご、ごめんなさい。私、泣いてたつもりなんかなかったのに……っ」
言い訳を口にしながら笑ってみせたが麻斗さんの腕の力が緩められることはなく、むしろ更に抱き寄せられる。
そして背中に回された手のひらがゆっくりと上下にさすってくれ、その温かさに張りつめていたものが一気に溢れ出してしまった。
「本当は今でも信じられないんです。パパもママも死んだなんて。もう会えないなんて……」
一度溢れたものは堰を切ったように止まらない。
「無理に忘れなくていいんだ。俺の前でそんな強がるなよ」
押し付けられた胸から麻斗さんの香りが私を穏やかに包んでくれる。
「ごめんなさい……、ごめんなさい」
こんな風にみっともなく泣いてしまって。
―――私だけ、生き残ってしまって……。
「謝ることなんかないだろ。もう何も言わなくていい、いいんだ」
泣くなと言われれば言われるほど涙は止まらない。
観覧車は頂上を過ぎ、あと半周もすれば終わり。
しばらく抱き締めていた腕がそっと緩められ、少し顔を上げるとお互いの息遣いが感じられるほど近くに麻斗さんの双眸があった。
長い指が優しく頬にかけられるとそのまま麻斗さんの顔がゆっくりと寄せられ、唇に柔らかくて温かい感触が落とされた。
「ん……」
最初は触れる程度のキスからいったん唇が離れると、もう一度重ねられ段々と深さを増していった。
麻斗さんの舌が私の中に入り込むと、絡ませながら同時に片方の手で頭を抑えて逃げ場を奪う。
「ん、んっ……う」
遠くに聞こえる遊園地の音楽と混ざり合う唾液の濡れた音がやたらと耳に響いてくる。
麻斗さんは唇を離してはすぐ口づけるというキスを、まるで何かを確かめるかのように何度も繰り返した。
ようやく離してくれたかと思うと至近距離で見つめてくる。
そこには初めて目にするぞくっとするほど艶めいた笑みがあった。