双子の姉妹。 1-1
「こんばんはー」
玄関で買ったばかりのスニーカーを脱ぎ、丁寧に揃えてからいつものように上がり込む。
今日はめずらしく、しんと静まり返った家。
出迎えはない。
普段が騒がしいだけに、気になってリビングを覗いてみた。
「あ、俊哉」
俺の存在に気付いて、ソファーに座る麻琴が顔を上げた。
こいつは相変わらず俺のことを下の名前で呼ぶ。
俺が年上であり先生だということを全く気にしていない。
「麻琴、俺のことは先生、って呼べ」
「なによ、今さら」
さも今までのことが当たり前のように、きょとんとした顔を見せる麻琴。
なんか腹立つ。
「あら、俊哉くん」
今頃、俺に気付いたおばさんが顔を上げる。
「二人して何やってるんですか?」
「今DVDがいいところなの!早く俊哉は上に行く!」
麻琴はそれだけ言ってテレビに視線を戻した。
「…はいはい」
まったく、もうすぐ一年の付き合いだというのに、麻琴は冷たい。
少しくらい仲間に入れてくれてもいいのに。
俺はしぶしぶリビングをあとにして階段を上った。
階段を上がり終えたその奥、隣り合わせにある二つの部屋の、右のドアを軽くノックする。
「琴音、俺だ」
「どーぞ!」
すぐにいつもの明るい声が返ってくる。
「よう琴音、やってるな」
「せんせ、こんばんは!今日は早いね」
「琴音が頑張ってるから、時間前に宿題チェックしようと思ってな。そしたら時間きっかりに今日の内容に入れるだろ」
そう言って、俺は琴音の頭をぽんっと叩いた。
これは普段からおまじないというか、ジンクスというか、まあいつもやっていること。
「せんせ、ありがとう」
「おー、今日も頑張るぞ」
そうして今日も、勉強が始まった。
***
一時間半というのは、真面目にやっている琴音にとっては非常に短い。
あっという間に今日も勉強時間は終わってしまった。
「お疲れ様、今日やったとこは次もやるからな」
「はい、せんせ」
椅子から立ち上がり、二人同時に伸びをする。
「あはは」
「はは」
これもいつの間にか習慣になっていたことだ。
あまりにタイミングが合ったので二人して笑う。
すると、下からおばさんの呼ぶ声がした。
「あー!ご飯だ!お腹すいたー!」
満面の笑顔で琴音は駆け出していった。
相変わらず琴音は、色気より食い気だな。
俺は苦笑いしながら琴音の後を追った。