ピリオド前編-9
翌日。オレはドアフォンの音に目を覚ました。
「…誰だ。こんな朝早くに…」
そう云って時計を見ると、10時を過ぎている。およそ半日は寝てたようだ。
覚醒しつつある間、ドアフォンはなおもしつこく鳴り響いていた。
「…ふぁい、ちょっと待ってくれよ」
慌てて布団から這い出て玄関ドアに向かった。
「はい、どちらさん?」
オレはチェーンを掛けてドアを開けた。
「和哉、わたしよッ」
ドアの隙間から、笑顔の亜紀が覗いていた。
「な、な、何しに来たんだよッ!」
オレは慌ててチェーンを外してドアを開けた。
「何ってずいぶんな云いぐさね。心配して来てやったのに」
「なんだよ心配って?」
「それはいいから…」
亜紀はそう云うと、オレを押し退けて中に入ってきた。
「何してんだよッ!」
つい、語気が荒くなった。が、亜紀は気にした様子もなくズカズカと部屋に上がり込むと、
「先週、連絡しても音沙汰無くて、今日は休みだって聞いたから来てみたんじゃない」
リビングから寝室、バスルームやトイレへと歩き回った。
「やっぱり…男はダメねえ」
ひと通り見た亜紀は、呆れ顔でため息を吐くと、下げてきたバッグから何やら取り出した。
バンダナにエプロン、それにゴム手袋。
「何してんだよ?」
「決まってるでしょう、この部屋の掃除よ」
胸を張って云う姉にオレは閉口した。
「なあに?そのイヤそうな顔は」
「“そう”じゃなくてイヤなんだけど…」
露骨な拒否の言葉に、亜紀は憤慨した。
「何云ってんのッ!布団は敷きっぱなし、洗濯物も使った食器も置いたまま、バスルームからトイレ、それに部屋中、ほこりが溜まってる。こんなにしてちゃ病気になるわよッ」
一気にまくし立てると、ポケットからメモを取り出した。
「ホラッ、アンタはこれを買って来てッ」
「…これって?」
「掃除に使う道具と洗剤よ。早く行ってッ」
「わ、分かったよ…」
オレは半ば叩き出されるカタチでアパートを出た。
それから近くのホームセンターで、すべての品を揃えて戻ったのは40分後のことだった。
「姉さん、買って来たよ」
部屋に入ると、亜紀は寝室の畳を雑巾掛けしていた。