ピリオド前編-7
「誰でもじゃないよ。姉さんだから、こうなったんだ」
その途端、静寂が部屋を支配した。亜紀は呆れたような目で仰ぎ見た後、俯いてベッドに片手を着いた。
そして、
「…最初も、ここだったよね」
長い沈黙を破る声。
「どしゃ降りの夜…雷が怖くて…憶えてる?和哉」
真っ直ぐに見つめる優しげな目。思わず鼓動が高く速くなる。
「…わ、忘れるわけないだろ」
「久しぶりにさ、しちゃおっか?」
「エッ?」
思いもよらない言葉に、オレは狼狽えた。
しかし、亜紀は次の瞬間、破顔させると勢いよくベッドから立ち上がり、
「うっそよ…」
オレの頭を、クシャクシャと撫でて横をすり抜けた。
「そろそろ寝るわ。おやすみ」
「…あ、ああ…」
「残りのビール、片づけといてね」
そして部屋から出ていった。
「何だい、ありぁ…」
ベッドに腰かけ、しばらく出口の方を眺めながら考えた。
(何故、亜紀はあんな態度をとったのだろう)
姉を異性として好きになって以来、亜紀はいつも受け身だった。
お互いが初めての時も、それ以降も、オレの欲望を受け止めてくれていた。
それが、今日に限ってあんな言葉を口にするとは思えなかった。
まして2年前、亜紀が結婚した時を最後と誓い合ったのに。
(やっぱり、何か変だな)
そうは思っても、オレにはどうすることも出来ない。亜紀自身、どうにかしたいから帰郷したのだろう。
「止めた…」
オレは缶ビールを一気に飲み干すと、袋から2本目を取った。
翌朝。昼近くに目覚めると、亜紀の姿はなかった。母の話では、夕方には戻ると云って出かけたらしい。
「そっか、じゃあオレも帰るよ」
「エッ、アンタもう帰るの?」
母はオレの言葉を意外だと云いたげに、
「亜紀が帰るまで待って、夕飯食べて帰りなさいよ」
「悪いけど、オレも色々とやることがあるんだ」
「そう、じゃあしょうがないわね」
説得したが、やがて諦めた。
「ところでオヤジは?」
「友達とこれよ」
母は顔をしかめて両手を組むと上下に振った。ゴルフの意。オヤジの唯一の趣味だ。
「相変わらずだな…」
「朝早くにいそいそと出かけたわ」
遅い朝食後のお茶を飲みながら、他愛のない話をしていて、あることが気になった。