ピリオド前編-2
『ピリオド』
週末は朝から良い天気だった。日射しは少し強いが、蒼空が広がる様はじつに清々しい。
「なんだかなあ…」
はずなのだが、これからのことを考えると気が重い。あの母からの電話以来、モヤモヤとした思いが続いていた。
母のことだからオレの気持ちなど考えること無く、必死の売り込みに徹するだろう。
そんな場に居たくもない。
まして他人との共同生活なんぞ、まだ必要じゃない。
だが、それは表面的な理由だ。その奥底に有るのは…。
「さて…」
行くにしろ行かないにしろ、週末休みの日課をこなす必要がある。オレはリビングを出てバスルームに向かった。
ようやく日課を終えた昼過ぎ、リビングに置いていた携帯が鳴った。
ディスプレイを見るまでもなく、かけてきたのは母だろう。煩わしさを感じたオレは、無視して部屋を出た。
黄昏時。
アパートに帰りつく。何をするもない、ただ、此処に居たくなかった。
夕陽に染まったリビングで、携帯が放つ鮮やかな光の点滅が気持ちをさらに落ち込ませる。
「まったく。何回かけて来てんだ…」
伝言回数を見て、思わずため息が漏れた。
母のことだ。今ごろは怒り心頭で、父に当たり散らしてることだろう。
「仕方ねえな…」
オレは携帯とキーホルダーを握り、アパートを飛び出した。
実家に帰り着いたのは、夜のかなり遅い時刻だった。
「何やってたのッ、何度電話しても出ないで」
玄関に入るなり、母の怒鳴り声が待っていた。
「…仕事が立て込んでたんだよ」
「だったらそう云いなさい。連絡くらい出来るでしょう?」
「携帯を忘れてね…」
母の前を通りすぎて居間へと続く廊下を進んでいると、途中にあるバスルームの扉が目の前で開いた。
中から現れたのは、パジャマ姿の亜紀だった。
「ね、姉さん…」
オレの声に振り返った亜紀は、一瞬、びっくりした顔を見せたが、猫の目のように表情を一変させるとオレの手を取った。