ピリオド前編-12
「夕飯を作るってなんだよッ、オレは聞いてねえぞ!」
「だから、いま云ったでしょ」
「いや…あのなあ」
狼狽えるオレに対し、亜紀は楽しげに笑っている。
「大丈夫よ。作ったら帰るから。それとも残って欲しいの?」
オレの腹の中を見透かしてやがる。
「ああクソッ!分かったよッ」
「うふふ」
なぜだか腹が立つ。気がつけば必ず亜紀のペースにはまっている。
オレは力任せたにギアを入れ、半ば乱暴な運転でスーパーへ向かった。
「和哉ァーーッ!出来たわよッ」
アパートに帰り着いてどのくらいの時間が経っただろう。夕闇が迫る頃、亜紀がリビングに現れた。
「へえ、チキン南蛮か。久しぶりだな」
「母さんみたいには、まだ無理だけどね」
テーブルに並べられたのは、かつて、我が家の定番料理と味噌汁にサラダだった。
ただ、オレはその量に驚かされた。
「姉さん。いくら何でもこんなに食えないよ」
「いつも多く作るから、つい…」
亜紀の嫁いだ先は、義理の両親に年の離れたダンナの妹が同居している。
「だったら姉さんも食っていけよ。その後、実家に送って行くから」
「でも…」
「残しちまったほうが勿体ないだろう。母さんには、オレから云っとくから」
「そうねッ」
亜紀は表情を一転させると、小走りでキッチンへ向かった。
夕食の後、片づけも終えて、しばしの寛ぎの時。
「はい和哉」
亜紀が差し出したのは缶ビールだ。
「姉さんだけ飲めよ。オレは後で運転するから」
「そうだったわね。ごめん」
「気にしなくていいよ」
「でも…」
「いいから、いいから」
「じゃあ」
そう云うと、遠慮がちに飲みだした。
「今度は下着姿を見せろなんて云わないでくれよ」
からかうオレに、亜紀は顔を赤らめながらも反撃してきた。
「何云ってんのよッ、姉に見られておっきくしたクセにッ」
「…あ、あれはたまたま…」
「どうせ、いやらしい事考えてたんでしょう?」
結局、オレは云い負かされてしまった。亜紀は勝ち誇ったように缶ビールを傾けている。
オレはソッポを向いてお茶を飲んでいた。