ピリオド前編-11
「わかったから、離れろって!」
こんな大袈裟なリアクションを取るなんて、思いもよらなかった。
「それよりさ、早く行かねえと」
「あ、そうね」
オレ逹は、急いで支度をして部屋を後にした。
「ねえ和哉」
それは玄関ドアを閉めてた時だ。
「何?」
振り返ったオレの手に亜紀の手が組みついた。
「な、何をしてんだよッ」
「たまには良いでしょう。せっかく美味しいお店に行くんだもの」
「姉弟でかい?」
「そうよ。悪い?」
亜紀のはしゃぎようは、無理をしているようで痛々しく思えた。
「わかったよ、姉さんには負けたよ」
「うふふ…」
駐車場へ向かうまで間、オレ逹は、まるで恋人同士のように歩いて行った。
食事中もそれは変わることなく、亜紀は笑顔を絶やさず楽しそうだった。
オレは思った。この帰郷が気持ちの拠り所ならば、いくらでも帰って来てほしいと。
だが、それは燻り続けていたオレの想いを、再び熱くさせた。
(…なんて情けない男だ)
すべてを封印しようと決めたハズなのに…。
「美味しかったわね」
店を出て開口一番、亜紀は感嘆の声をあげて喜んでいる。
そんな嬉しそうな顔を見て、つい、意地悪を云いたくなった。
「おかげでこっちは金欠だよ。明日からはカップ麺とおにぎりが晩メシだ」
すると、
「何云ってんのッ、ハウスクリーニング頼んだら幾らかかると思ってんの。それが、ここの食事代だけで済んだんだから安いモノじゃない」
「わかったよ」
オレ逹は一旦、会話を切るとクルマに乗り込んだ。
「姉さん、今日はありがとう。ところで、送るのは実家でいいのかい?」
エンジンを掛けながら何気なく訊いた。すると、意外な答えが返ってきた。
「夕飯の材料買うからスーパーに寄ってくれない?」
「なんだって?」
オレには、亜紀の云った言葉の意味が分からない。
「だから、食事のお礼に、わたしが夕飯を作ってあげる」
「ちょ、ちょっと待ってくれよッ!」
突然の申し出は、オレを焦らせるのに十分な内容だ。