お江戸のお色気話、その2-1
(2)
「あたしは女に、取り立て屋の仲間に教わった通りに言いましたよ、
(借りた金を返すのが当然じゃないか!
貸した金は利息も付いてこんなに溜まってるんだ、
あんた元武家の奥さんらしいが、それ位わかるだろう、
このババア!借りた金に利息を付けて今、直ぐにでも返しやがれ!)と、
あたしは珍しく啖呵を切ったんです、
内心はどきどきしていましたが」
「おお、それは勇ましいな・・それでどうしたかな?」
老人は腕を組み、呟きながら金吉を見た。
皆もことの成り行きを知りたくて、二人を見つめていた。
「そうしたら、その奥方は俺の啖呵に驚いておろおろして、
急にがらりと態度が変わったんですよ、ご隠居」
「ふむふむ・・でも思い切ったことを言ったな、可哀想に・・
金吉や、それでどうなった?」
「その女が言うには
(あの、誠に申し訳ありませんが、借りたお金は直ぐにはお返しできません、
もう売るものも無いのです、
それで何とか待っていただけないでしょうか)
と言うので、あたしは冗談のつもりで
(では、あそこに居る娘を俺に抱かせろ、
そうしたら何とか考えてもいいぞ)、と出任せに言ったんですよ」
それを聞いていた、長屋の女房達が(ひぇ〜!よく言えたもんだねぇ)
と黄色い声を出していたが、
その目は皆、生き生きとしていた。
貧しい長屋の人達は、武士にはコンプレックスを抱いており、
その思いが好奇心と重なって異様な興奮状態になっていた。
「あ、あの娘はまだ嫁入り前ですし、どうぞお許しください、
でもどうしてもと・・仰るのなら、
もし、わたくしでよろしければ・・と、恥ずかしそうに言うんです。」
「おお、それは・・名状しがたい光景だな、
余程の気構えというか・・決心というか
流石に元武士の奥方だな、ふむふむ、それでどうした?」
老人を含め、
皆はその金吉の次の言葉に固唾を呑んで見守っていた。
「あたしはご隠居もご存じのすけべえな男ですから、
こんな美味しい話をみすみす逃す手はない、と思いましてね」
「ふ〜む、それでその母御殿をいただいた、という訳かな?」
「へえ、そんなもんで・・」
あちこちから、(ふぇ〜、よくやるもんだ)というため息が漏れる。